「若者が死ぬことで将来の高齢者が減り、年金が救われる」森永卓郎さんが考えていた“恐ろしい未来予想図”

「要は介護施設から毎日出勤しなさいという話だ」

しかし、元ネタとなっているのは、労働政策研究・研修機構の労働力需給推計なので、その「成長実現・労働参加進展シナリオ」と名付けられた標準ケースをみると、2040年の労働力率は、男性の65~69歳が81%(前回比+9%ポイント)、70~74歳は63%(前回比+14%ポイント)、女性の65~69歳は64%(前回比+10%ポイント)、70~74歳は40%(前回比+7%ポイント)と、いずれも大幅な増加になっている。

ちなみに、労働政策研究・研修機構の数字は、グラフから読み取っているので、わずかな誤差はあるかもしれない。
ただ、男性の3人に2人が75歳まで働き、女性の4割が75歳まで働く超高齢就業がビジョンとして描かれているのは間違いない。要は、介護施設から毎日出勤しなさいという話だ。そんなことが可能だとは、誰も思わないだろう。つまり、高齢就業シナリオは、完全に行き詰ったということなのだ。

今回の財政検証では、その他にも数多くの非現実的な想定がなされている。例えば、積立金の利回りは物価上昇率を差し引いた実質で3.2%、実質経済成長率は1.8%、物価上昇率を差し引いた実質賃金上昇率は1.5%といった具合だ。
厚生年金の場合、政府は現役世代の手取り収入の50%以上の年金を給付すると掲げてきたが、その目標はもはや達成できない。ただ、一つだけ年金財政を好転させる可能性があるのは、平均寿命が今後50年間で4.3歳伸びると想定されている点だ。

しかし、現実の平均寿命は2年連続で短命化しており、人口動態統計でみた昨年の死亡率は、10代から30代までのすべての年齢階級で前年を上回っている。若者が死ぬことで将来の高齢者が減り、年金が救われるという恐ろしい未来が、やってくるのかもしれない。

(2024年8月1日号)
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2025年4月25日(金)発売
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森永卓郎

1957年7月12日生まれ。東京都出身。経済アナリスト。 1980年に東京大学経済学部を卒業後、 日本専売公社(現在のJT)に入社。経済企画庁、 UFJ総合研究所(現在の三菱UFJリサーチ&コンサルティング)などを経て、 2006年から獨協大学経済学部教授。 執筆のほか、テレビ、ラジオ、講演でも人気を博す。 2023年12月にステージ4のがん告知を受け、 闘病しながら活動を続けていたが、2025年1月28日死去。