いつもの居酒屋で友人からアドバイス「おまえはツイッターをやれ」――しがない野球好きのサラリーマンは“野球考古学者”キタトシオとして生を受けた

「僕を沼から引きずり出してくれた友人には頭が上がらない」

2019年のある夜、いつもの居酒屋でのこと。友人はキタに「死ぬ前にやっておくべきことがある」とスマホを提出させた。

「ここで話をしているだけじゃもったいない。とりあえず、おまえはツイッター(現X)をやれ」

友人からの提案をキタは拒否した。

冗談ではない。ただでさえ昭和野球が服を着て歩いているようなアナログ人間。会社生活でただれ切った野心は死に体となり果て、外に向けて何かを発信するような意欲はとうに死んでいた。

それでも友人はキタのスマホを取り上げ、勝手にアカウントを作成してしまう。

「名前はどうする? 適当に付けておくから後で直しといてくれ」

男の運命なんて、いつどこで誰の手でも顕在化するリーンカーネーションの輪の中にある。

その瞬間、しがない野球好きのサラリーマンは、野球考古学者・キタトシオとして生を受けたのだ。

「完全に他力本願なんですけどね。そういった意味では、腐りきっていた僕を沼から引きずり出してくれた友人には頭が上がらないですよ。最初はツイッターもいやいや始めてみたんですが、どうせやるならば140字の世界でも面白いネタを書きたいじゃないですか。フォロワーなんて誰もいないですよ。

だけど、小ネタで遊んでみたり、リズムとかオチをつけてみたり、そういうことを意識してやり始めたらだんだん面白くなって、次第にフォロワー数も増えていき、書くことが楽しくなってきました。ネタはいくらでもありました。そういう本をいっぱい持っていましたからね」

その道に選ばれたものは途中どんな困難があろうとも必ず目的地にたどり着く。

’21年。セ界はコロナ禍の最中、1通のDMが届く。ベースボールマガジンの編集者からであった。

(後編へ続く)

取材・文/村瀬秀信

「週刊実話」5月8・15日号より