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菅首相が“続投”へ意欲満々!「安倍&麻生連合」スリ寄りの密談政治

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自由民主党(C)週刊実話Web

9月の衆院解散・総選挙が固まった。新型コロナウイルス対応で失策続きの菅義偉首相だが、コロナ禍という非常事態の下で「菅おろし」は起きず、このまま自ら選挙戦に臨もうと目論んでいる。だが、コロナのさらなる感染拡大や東京五輪中止といった事態になれば、情勢は一気に緊迫化する。それだけに、自民党内では安倍晋三前首相、二階俊博幹事長ら実力者を中心に、政局の主導権を巡る暗闘が激化してきた――。

「新型コロナウイルス変異株が広がる中で、今が感染を食い止める大事な時期だ。1日も早く安心できる日常を取り戻すため、皆様のご協力を心よりお願いを申し上げます」

緊急事態宣言の対象が9都道府県(東京、大阪、京都、兵庫、愛知、福岡、北海道、岡山、広島)に急きょ拡大された5月14日夜、菅首相は官邸での会見でこう述べた。

首相の表情は疲れており、精気がない。コロナ感染の爆発的拡大を止められず、頼みのワクチンは供給が遅れ、予約殺到による混乱も全国各地で起きた。目に力はなく、首相が開催に命運を懸ける東京五輪は中止の崖っぷちに追い込まれるなど、いよいよ政権末期かと見まがうような状況だ。

だが、自民党内であからさまな「菅おろし」は起きず、政権交代の受け皿として国民から期待されていない立憲民主党にも倒閣姿勢を強める動きは見られない。

菅首相は4月23日、緊急事態宣言の再々発令を決定した後の記者会見で、10月21日に任期満了を迎える衆院の解散について「私の(9月末までの)自民党総裁任期の中で、機会を見て考えなければならない」と明言した。

コロナを抑え込み、東京五輪を成功させない限り、首相の退陣は不可避というのが永田町の共通認識となっている中、首相の発言は、衆院選に先立つ党総裁選を拒否し、自らが解散を断行する意向を表明したと受け止められた。

かつての自民党なら、政権が低迷を続ける中でこうした発言をすれば、批判や反発が吹き出したものだ。だが、この発言から1カ月。コロナと東京五輪を巡る状況はさらに悪化し、内閣支持率も一部世論調査で40%を割り込み急落しているにもかかわらず、永田町は驚くほど静かなのだ。

自民党関係者が事情を読み解く。

「非常時に政局は御法度ということもあるが、それ以上に自民党の人材不足と派閥の弱体化が顕著になったことが大きい。結局のところ、『ポスト菅』が見当たらないんです。野党は野党で内閣不信任決議案の提出をためらっているので、菅政権は『奇妙な安定』状態に入っている」

安倍サイドが要求する幹事長ポスト

この状況を見越し、いち早く政局の主導権を握ろうとしているのが安倍前首相と、盟友である麻生太郎副総理兼財務相の〝安倍・麻生連合〟だ。

「当然、職を続けるべきだ。総裁選は去年行ったばかり。1年後にまた総裁を代えるのか。自民党員であれば常識を持って考えるべきだ」

安倍前首相がこう語り、菅首相支持を明確にしたのは、5月3日に放送された民放のBS番組において。

安倍前首相は菅首相に対し「私が辞めざるを得なかった後、準備もできず大変だったと思うが、よくやってくれている。夏の東京五輪までは首相を支持する」と言い続けてきた。

今回はさらに踏み込み、選挙戦は菅首相で戦うと宣言したのだ。

これには伏線がある。首相は3月29日、わざわざ衆院議員会館の安倍前首相の事務所を訪ね、2人だけで1時間近くも会談した。

関係者によると、首相は自身の総裁任期中に衆院解散をしたいとの考えを打ち明けた。「その後はどうするの」と安倍前首相が聞くと、「また相談させてもらいます」と答えたという。

首相が解散の手の内を安倍前首相に明かしたということは、自身への支持要請に他ならない。安倍前首相の言う「その後」とは選挙後のことだ。

つまり、「人事はどうするのか」と聞いており、首相は「相談する」と答えた。続投支持を条件に、主要人事では安倍前首相の意向に逆らわない、と暗に伝えたわけだ。

菅政権は二階幹事長の後押しで誕生したと言っていい。しかし、安倍前首相の出身派閥で党内最大の細田派と、第2派閥の麻生派の支持を得なければ、続投はおぼつかないことを首相も分かっていた。このタイミングで二階幹事長から安倍・麻生連合に軸足を移したのだ。

細田派幹部が話す。

「安倍さんの狙いは幹事長に有力な側近を就けること。二階さんは、もう82歳だ。5年も幹事長を続けるのは長すぎる」

首相は4月6日昼、麻生氏とも1時間にわたり会談するなど、コロナや五輪で苦境が続く中でも、選挙後の体制について構想固めを進めてきた。

漏れ伝わる話を総合すると、幹事長には細田派の松野博一事務総長か萩生田光一文部科学相のどちらかが就任。麻生氏は財務相を退き、後任に岸田文雄前自民党政調会長を充て、「ポスト菅」の芽を残す一方で、麻生・岸田両派による「大宏池会」構想を進める。官房長官には首相に近い梶山弘志経済産業相を横滑りさせる案が出ているという。

前出の細田派幹部は「首相が衆院選に勝てば、総裁選は無投票再選だ。二階幹事長は副総裁に祭り上げとなり、衆院議長は額賀福志郎元財務相の線で進むだろう。ポスト菅は、岸田さんと河野太郎行革担当相が争うことになるのではないか」と予言した。

こうした動きを百戦錬磨の二階幹事長が察知しないわけがない。菅首相が安倍前首相と会談した直後に二階幹事長は、立憲民主党の安住淳国対委員長が内閣不信任決議案の提出に言及したことにかこつけて「出してきたら、直ちに衆院解散で立ち向かうべきだと首相に進言したい」と語気を強めた。安住氏への痛烈な反撃と受け止められたが、真相は違うという。

自民党関係者が話す。

「首相への当てつけだ。解散時期を決めるのも、政権の帰趨を握っているのも自分だと分からせるために言ったんだよ」

菅首相に迫られる「踏み絵」

二階幹事長は首相が安倍前首相と会談したと聞き、不機嫌になったという。

その後も二階幹事長は首相へのけん制とも受け取れる言動を繰り返していく。最たるものが「東京五輪中止」発言だ。

二階幹事長は4月15日、TBSのCS番組収録で「コロナ感染でこれ以上は無理だとなれば、スパッとやめないといけない」と踏み込んだ。

「自分を怒らせれば、五輪だって中止にさせられるという究極の脅しだ。小池百合子東京都知事ともつながっているのだろう」(前出・自民党関係者)

小池都知事は、表向きは五輪開催の方針を変えていないが、二階幹事長とは4月20日に続き、5月11日にも自民党本部を訪ねて会談。都議会自民党幹部によると、7月の都議選(6月25日告示、7月4日投開票)に向け、小池都知事率いる地域政党『都民ファーストの会』と自民党が共倒れしないよう「手打ちについて話し合った」という。都議選後、自民党も小池与党になる「密約」だ。

このように、二階幹事長はいまや小池都知事の「後見人」であり、小池都知事は、二階幹事長が安倍・麻生連合に対抗するための大事な「カード」となっているのだ。

前出の自民党関係者は策士・小池都知事の腹の内をこう読む。

「2人で五輪中止のシナリオを練っていても驚かない。首相は深手を負い、もう持たない。小池都知事は都議選で勝ち、その勢いで知事を辞めて衆院選に出馬し、将来の首相候補に躍り出る。こんなことを考えているのだろう」

とはいえ、このシナリオの行方は見通せない。今後、東京をはじめ、全国の感染者数が落ち着いてくる一方で、ワクチンの接種が本格化する。

政府関係者は「6月中には雰囲気が一転し、東京五輪を成功させようと、7月23日の開幕に向けて国際社会の後押しも強くなる。G7サミット議長国の英国と、来年の北京冬季五輪を控える中国は相当動いてくれている」と話す。

実際、二階幹事長も東京五輪中止の可能性は低いとみているのか、小池都知事と会談した5月11日には「政治の安定が一番大事だ」と、安倍前首相に続いて菅首相の続投支持を表明した。五輪が実現し、首相の下での衆院解散・総選挙となった場合に、発言権を確保するための備えだ。

二階幹事長は幹事長続投が本心だが、自ら潔く身を引く代わりに、腹心の森山裕国対委員長を後任に押し込もうと考えているとされる。森山氏を通じて政治の主導権を握り続け、安倍・麻生連合に対抗しようというわけだ。

コロナや都議選、五輪がどういう展開になるのかはいまだ不透明で、首相のお膝元である横浜市長選も8月中にあり、結果は衆院選に多少なりとも影響を及ぼす。二階幹事長がその時の政治状況を見極め、渾身の一手を繰り出そうとするのは間違いない。

「首相が自民党総裁選の前に解散するためには、総裁選の先送りと総裁任期の短期延長を決める必要があるが、二階幹事長が首を縦に振らなければ、自民党の決定にならない。そこをどうするか、首相の手腕にかかっている」(前出・永田町消息筋)

二階幹事長から安倍・麻生連合に乗り換えようとしている菅首相。政変を防いで衆院解散にたどり着いたとしても、政権維持のためにどちらの神輿に乗るかの「踏み絵」を最後まで迫られることになりそうだ。

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