「犬の遠吠えでは効果がない」佐藤栄作政権の誕生とともに回転を始めた中曽根康弘の“風見鶏”



「ペラペラ燃えるカンナくず」

この“首相公選論”は言うまでもなく、自ら首相への近道を模索した結果で、当時は中曽根自身の発案により「首相も恋人もあなたが選びましょう」といった看板が、田畑、野原などに立ち上がったものであった。

挙げ句、池田(勇人)政権下では南極視察を巧みに“利用”し、ポールに日の丸と共に堂々と「首相公選の旗」を掲げてみせるなど、ここでもパフォーマンスは全開だったのである。

ちなみに、この時期の中曽根に投げかけられた“代名詞”は「思想なきナポレオン」「口舌の徒」「オポチュニスト」「ペラペラ燃えるカンナくず」など散々なものが多かったが、極め付きは「風見鶏」であった。

「風見鶏」とは屋根の上などに立てられ、“風向き”を知る器具である。

ために、政界遊弋に不可欠な「風見鶏」だが、中曽根の場合は周囲の状況や権力者の意向などによって、態度や立場を変えることを揶揄する異名でもあった。

佐藤政権の誕生をもって、この中曽根「風見鶏」は回転を開始した。

「佐藤批判の精神を貫く」として中曽根派を旗揚げした当初は、なんとも舌鋒鋭かったが、“冷や飯”期間の長さにシビレを切らしたか、第2次改造内閣では運輸大臣として佐藤に取り込まれた格好になった。

こうした事態に派内から不満の声も出たが、中曽根いわく「反主流派にあって犬の遠吠えでは効果がない。刀の切っ先が相手に届くためには、まず相手に近づく必要がある」と、異論を抑え込んでしまった。

懐柔策が功を奏したことで佐藤としても悪い気があろうはずもなく、第3次内閣では中曽根を防衛庁長官に起用し、取り込みに拍車をかけた。

当時、就任直後の「長官巡視」でも、中曽根らしさが存分に顔を出している。