「好きな人は何があっても買う」愛好家をひきつけてやまない“南米音楽の深み”を稀代の専門店オーナーが熱弁!



南米音楽の案内役という矜持

神楽坂の『大洋レコード』
大洋レコードで、ブラジル・アルゼンチンなど南米の音楽を扱う輸入盤のセレクト販売、ライセンス国内盤CDの販売を手掛ける伊藤。それだけにとどまらず、海外ミュージシャンの来日ツアーの企画などを務めたほか、野宮真貴&フェルナンダ・タカイのブラジル公演のステージに上がったこともある。

なぜか、田代富雄のユニフォーム姿で。

「ブラジル人は誰も田代のことを分からなかったですね。残念です」と日伯の大洋ファンの架け橋になることに失敗した伊藤はやはり、表現者である。

その真骨頂のひとつが、店内のCDに添えられたレビューだ。

通販のページにある伊藤がセレクトしたCDひとつひとつにも、実にキメ細やかなレビューが並ぶ。

音楽雑誌に南米音楽の評者として寄稿しているのも納得だ。

「我々が扱ってるようなブラジルやアルゼンチン音楽っていうのは、もう本当に好きな愛好家のコレクターアイテムとしての側面が強い。だからいわゆるサブスクには入ってこない音楽。入っていてもどこから手をつけていいのか分からない。だから、そこには、音楽雑誌や評論家、レコード屋があって案内役になるという役目が今もあるんです」

音楽業界全体が下火になっている現在、サブスクが登場してから、さらにCDが売れなくなっていると聞く。

しかし南米音楽は、メジャーではないジャンル。「好きな人は何があっても絶対に買う」側面があるゆえ、サブスクなどの大波の直撃は免れているともいえた。

「その一方でこのジャンルでもリスキーにはなってきているんです。やっぱり我々世代というのは、アナログLPに価値を見出すような人が多いんですが、アナログって制作費も輸送費もすべて高くてブラジルからの輸入盤で7000、8000円が普通。そうなると本当に欲しいものしか買わない。CD2000円のときなら試しに買うこともできましたけどね。今は仕入れをするにも最盛期の3分の1ぐらい。まぁ、厳しいですよ。でも、どうにかなるんです」

無根拠に言い放つ伊藤と大洋レコードには、不思議と何年かに一回、幸運が舞い降りるという。