「知れば知るほど深みにハマる」南米音楽に人生を捧げたレコード店オーナーがその独創的な魅力を激白!



生のボサノヴァに衝撃!

『大洋レコード』
「ボサノヴァのことはミュージックマガジンを読んで知識としてはあったんですけど、生のイベントで見たそれは想像の範囲を超えていました。まずゲッツボサノヴァと言いながら、ボサノヴァの人が少ししかいない。出てくる音楽はベースがなかったり、ドラムとパンデイロというタンバリンみたいな打楽器でエキセントリックなプレーを見せられたり、とにかく複雑で面白い。大量の点差があっても大逆転をするし、される。まるでベイスターズの野球じゃないか…これがブラジルの音楽なんだって、そこから完全にのめり込みましたね」

ゲッツボサノヴァでまんまとレッツ南米音楽をしてしまった伊藤さんはそこから突き抜ける。

某大手レコード会社の子会社に就職すると、輸入盤の営業としてタワーレコードやHMVなどの大型CDショップへの卸しなどを担当。クラシックや英米以外の世界の音楽、ワールドミュージックを担当し、その魅力を伝えようと獅子奮迅の働きを見せた。

「いや、でもね、結構な仕事をやったけど評価はされなかったんですよ。なぜなら社長はクラシック出身、常務はジャズ、専務は…なんだったかな。とにかく関心がないんです。毎週の会議で『これだけ注文を取ってきました』『これをやりましょうよ!』とやっても、みんな寝てるんです。さらに、在庫問い合わせの電話を全部僕の席に回されたりね。今で言うパワハラ。いじめに近いものがありました。でも、決定的だったのが新入社員の女の子の方が給料が高いと知ったときでしたね。俺はなんのために、こんな苦しい思いをして残っているんだろう。どうせ苦しい思いをするんだったら、自分で独立して好きなブラジルとアルゼンチン、それとフランスの音楽だけをやろう。そう決意したのです。ベイスターズは当時、暗黒時代のど真ん中でした」

2005年、伊藤さんは神楽坂のビルの一室に自分の店をオープンした。

名前は世界の海へ打って出る大洋。クジラのマークの大洋レコードが誕生した。

(後編に続く)

取材・文/村瀬秀信

「週刊実話」2月27日号より