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『「不時着」しても終わらない』著者:黒田福美~話題の1冊☆著者インタビュー

『「不時着」しても終わらない』著者:黒田福美~話題の1冊☆著者インタビュー 
『「不時着」しても終わらない』主婦の友社/1430円

『「不時着」しても終わらない』主婦の友社/1430円

黒田福美(くろだ・ふくみ)
俳優・エッセイスト。桐朋学園短大演劇科卒業。芸能界きっての韓国通として知られる。80年代から韓国への往来をはじめ、30余年にわたって、放送、著作物、講演などを通して韓国理解に努めてきた。韓国関連の著書多数。

――芸能界きっての〝韓国通〟として知られる黒田さんですが、興味を持ったきっかけは?

黒田 80年代の日本において韓国は、一言でいえば「アンタッチャブル」な国。マスコミが報道しようにも、一つ間違うと大事になるので、たとえ文化的な事柄でも取り上げにくい国でした。結果、極端に情報が少なく、半島や日本に住む在日の人々に対する偏見が温存されていました。もっと情報が必要だと先陣を切って韓国報道に携わりましたが、そんな私自身にも誤解や偏見の目が向けられる有り様。現在の韓流ブームに沸く日本の状況は、まさに「隔世の感」ですね。

――昨年、ドラマ『愛の不時着』が大ヒットしました。日本人にウケた理由はどこにあると思いますか?

黒田 これまでの韓流ドラマとは一味違った設定ではないでしょうか。数々の韓国ドラマがヒットしてきましたが、記憶喪失や不治の病、身分の違いなど「お決まり」の壁を乗り越えて、イケメン王子様と結ばれるシンデレラストーリーが多かったと思います。ですがこのドラマでは、未来を切り開く強い女性像、分断国家ならではの南北の相克、エキゾチックな北の生活や寡黙な北の兵士像など、斬新な点が多かったかもしれません。

日本人男性にはない細やかな愛情表現

――北朝鮮の大尉リ・ジョンヒョクは、日本人女性からも大人気でした。モテるタイプは、やはり似ているのでしょうか?

黒田 韓国ドラマの主人公たちは感情や情愛を言葉や態度に十二分に表現し、そんな民族性が日本女性には新鮮な魅力として映りました。「言わなくても分かるだろう」と考える日本人男性にはない細やかな愛情表現が、心を捉えたのです。

リ・ジョンヒョクはどちらかというと寡黙であり、決断力とリーダーシップに富んだ男性です。以前、韓国で高倉健さん主演の映画『鉄道員(ぽっぽや)』が大ヒットしたことがありました。表現しなければ伝わらないと思っている韓国人の目から見ても、日本的な男性像である「寡黙な男」の姿は魅力的で心に響くものがあったのでしょう。

――ドラマは大ヒットしましたが、日韓関係は冷え切ったままですね…。

黒田 現在の日韓は戦後最悪の状況ですが、韓国の中にもきちんとしたエビデンスに基づいて歴史解釈をしようとする人たちが声を上げ始めました。歴史認識や外交における食い違いなどは、感情的なことはいったん差し置いて、お互いゆるぎない根拠に基づいた議論が正々堂々と行われるべきです。文化交流の花は、その上に咲くのですから…。

(聞き手/程原ケン)