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長州力「またぐなよ」~一度は使ってみたい“プロレスの言霊”

長州力「またぐなよ」~一度は使ってみたい“プロレスの言霊” 
長州力(C)週刊実話Web 

現役引退後も目覚ましい活躍を続ける長州力。芸人にいじられて笑顔を振りまく姿は、現役時代の強面ぶりからすると相当ギャップがあるものの、これまで多くの名言を残してきたその言語センスから見るに、タレント適正は高そうだ。

長州力がテレビ出演した際の言葉やツイッターへの書き込みが、最近は広く一般の人々にまでウケて、浸透しているようだ。中でも「飛ぶぞ」というフレーズは、一時、女子高生にまで流行したとの話もあり、ギャル雑誌『egg』の「流行語大賞2020」では堂々6位に選出されている。

なお、これはバラエティー番組『相席食堂』(朝日放送テレビ)における北海道ロケで、長州が漁師からもらったパック詰めのホタテ貝柱を食べた際、あまりのうまさに「食ってみな、飛ぶぞ」と、撮影スタッフに勧めたのがきっかけ。

VTRをスタジオで見ていた千鳥の2人は、そろって大爆笑しながら「(その言い方はクスリを)1回ヤッとる人なんよ」「それって(クスリを)勧めるときやから」とツッコんでいる。もちろん、長州はこれまで薬物問題を起こしたことはない。

この場合の「飛ぶ」はクスリでトリップするという意味ではなく、試合中に強いダメージを受けて「意識が飛ぶ」ことをイメージしたものと思われるのだが…。

言葉の意味がはっきりしない上にどこか婉曲した言い回しが、一般からすると「理解不能でおもしろい」ということなのだろうが、長年プロレスを見てきた側からすれば、むしろ「見慣れた風景」として映るのではないか。長州の現役時代における数々の名言を振り返ってみれば、例えば「かませ犬」にしても、具体的に「藤波辰巳(現・辰爾)をぶっ潰す」とは言っていない。

結論をボカしたプロレス的発言

世間一般では簡潔明瞭な言葉こそが「良し」とされがちだが、プロレスでは必ずしもそれがベストとは言い切れない。インタビューなどのコメントでも、あえて結論をボカしていくことは、ファンの想像力に働きかけて期待感を煽ることにもなるからだ。

プロレスにおいては交渉の進捗状況やファンやメディアの反応次第で、対戦カードが変更されていくことも多々あり、そこで最初から断定的なことを言ってしまえば、ファンを裏切ることにもなりかねない。だからといって、曖昧なことばかり言っていたのでは、ファンはシラけてしまうのだが…。

そうした視点で見たときに、結論をはっきり言わずとも、怒りを前面に出すことでファンを飽きさせない長州の発言スタイルは、実にプロレス的である。

大仁田厚との対戦実現に至る過程などは、まさに好例だ。

1999年11月、新日本プロレスでマッチメークを担当する永島勝司企画部長(当時)は、大仁田を訪ねて濡れた長州Tシャツを手渡し、「これが長州のメッセージ代わりだ」と伝えた。

それを「復帰に向けてトレーニングする長州の汗が染み込んだもの」と理解した大仁田は、「一騎打ち決定じゃあ~!」と絶叫。実際のところ、Tシャツは単に水で濡らしただけだったともいわれるが、しかし、長州の了解なしにできることではない。

そして、この一件が11月にあったということは、新日サイドとしては翌年1・4東京ドームでの対戦実現を目論んでのこと。実際問題として同大会では、因縁の小川直也と橋本真也はタッグマッチでの対戦となり、それ以外に話題性のある試合となると、山崎一夫の引退戦ぐらいしかなかった。そこで長州VS大仁田が行われれば、大きな話題になっただろう。

“邪道”大仁田を嫌い続けたアントニオ猪木

しかし、かねてから大仁田を嫌悪するアントニオ猪木の意向もあってか、このとき長州と大仁田の試合が組まれることはなかった。

その後の調整により、長州VS大仁田は新日の大会とは別枠で行うことで折り合いがつき、ようやく実現の運びとなったのだが、この時点ではまだ「電流爆破マッチが実現するか否か」という問題が残っていた。

そこで、大仁田は横浜アリーナでの対戦(2000年7月30日)のちょうど1カ月前、電流爆破を直訴するために海老名大会の会場を訪れる。開場前のリング上では、長州をはじめとする新日勢の練習が行われていた。

観客席の最前列に設置された鉄柵のところまで大仁田が歩を進めると、長州は「入るなコラ、入るなよ。またぐなよコラ。またぐな。またぐなよ、絶対に!」と、大仁田をけん制。つまり、「ストロングスタイルの原点たる神聖な練習の場は、大仁田のような〝邪道〟が入ってこられるところではない」と伝えたわけだ。

そうして長州は「神聖な場に入れない以上は電流爆破も行わない」という雰囲気を醸し出しつつも、大仁田が持参した対戦要望の手紙は田中秀和リングアナに受け取らせて、明確な返答をせずに控室へと去っていった。

大仁田劇場を繰り広げながら、ギリギリまで焦らして期待感を煽ったこともあり、両者の対決はプロレス界初のPPV(ペイ・パー・ビュー)として大成功を収めることになった。

驚くべきは、こうした一連のやりとりを長州、大仁田の双方が、打ち合わせもなくアドリブで行っていたことである。このあたりのセンスが、一流レスラーとそれ以外を分ける重要なポイントだと言えるだろう。

《文・脇本深八》

長州力
PROFILE●1951年12月3日生まれ。山口県徳山市(現・周南市)出身。身長184センチ、体重120キロ。 得意技/サソリ固め、リキラリアット、垂直落下式バックドロップ、ストンピング。

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