大学中退でニート仲間と山奥移住した“限界集落ひきこもり記”「ニートのままでも社会の役に立てることがあるかもしれない」

『マンガ「山奥ニート」やってます。』石井あらた
◆『マンガ「山奥ニート」やってます。』光文社/1400円 

――石井さんが「山奥ニート」を始めたきっかけを教えて下さい。

石井「大学に行かなくなって、ひきこもり生活をしていました。その頃、東日本大震災があり、東北にボランティアに行きました。そこではニートやひきこもりの人たちがたくさん来ていて、こういった非常時になると頼もしい存在だとボランティアの受け入れ側の人がおっしゃっていました。
ニートのままでも社会の役に立てることがあるかもしれないと思い、あれこれ探しているうち、ニートを山奥に集めて共同生活させるというNPOのプロジェクトを知って、そこに応募しました」

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――山では実際にどんな生活を送っていたのですか?

石井「好きな時間に起きて、好きな時間にごはんを作って食べていました。僕たちは山奥でシェアハウスをしているのですが、シェアハウスの中でもルールはなるべく少なくしていました。絶対に守らなくてはならない明文化されたルールとしては、(1)生活費はきちんと収める、(2)暴力はダメ、(3)使った皿は自分ですぐ洗うの3つくらいです。
お金の稼ぎ方は人によってさまざまですが、僕の場合は最初は山に入ってサカキを取ってきたり、梅取りの季節のアルバイトをしていました。最近では文章を書くことでの収入がメインです。日々の生活費は日本一少ないレベルだと思います」

社会的に必要でない場所×ニートが生み出すエネルギー

――これまでの山での生活で、一番困ったことはなんでしょうか?
 
石井「山奥に引っ越して1年ほど経ったあと、住居にしていた民家の大家さんから出て行ってほしいと言われました。他の住める所を探すうちに、廃校となった木造校舎に住まないかという話が持ち上がって、運良くそこに滑り込むことができ、事無きを得ました」

――現在は、何人くらいが共同生活を送っているのでしょうか?

石井「現在は8人が暮らしています。平均すると1年に2〜3人が入れ替わる感じですが、ひきこもり気質の人が多いため、力を合わせてなにかやるってことはほとんどありません。庭にBBQコンロを常設していて、夏になるとその日の気分で肉や野菜を焼いてみんなで食べます。みんなの好きな音楽を流しながら、山際が夕日に染まっていくのを見ているのは豊かな気分です。 
山奥というのはある種、希望の場所になります。社会から要らないと言われる場所と、社会から要らないと言われるニート、それらが組み合わさることで新しいエネルギーが生まれる手応えを感じましたね」

(聞き手/程原ケン)

石井あらた(いしい・あらた)

1988年生まれ。愛知県出身。大学に進学するが、ひきこもりとなり中退。ネットを通じて知り合ったニート仲間に誘われ、’14年3月から和歌山県の山奥に移住。’24年2月に山奥ニートをやめた。本書の漫画は棚園正一氏。