森永卓郎 (C)週刊実話Web 
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“三権分立”の原則には例外があるのか?~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

財務省本省から森友学園関連の決裁文書を改ざんするよう指示を受け、良心の呵責に苦しんで自死を選んだ近畿財務局の赤木俊夫さんの妻、雅子さんが起こした裁判は、現在2ルートで行われている。


一つは改ざんの指示を出したとされる、佐川宣寿元理財局長を訴えたものだ。その裁判の控訴審で、9月13日に弁論が開かれた。焦点は、雅子さんが求めた佐川氏への尋問が認められるかどうかだった。


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雅子さんは、「最後に裁判官の皆さまにお願いがあります。私は夫がどうして死ななければならなかったのかを知りたいです。仕事の上で犯罪行為をしても、何の説明もせず責任を逃れられることが証明されるのはおかしいと思います」と尋問を要求したが、裁判長は最終的に「尋問を実施する必要はないと考えます」とあっさり退けてしまった。


その翌日、雅子さんが財務省に情報開示を求めた裁判の判決があった。捜査の際に検察に任意提出した文書などを開示するよう雅子さんは財務省に求めたが、文書が存在するかどうかも含めて開示できないと財務省が回答したため、裁判に持ち込んだ。ところが、判決は、文書の存否を含めて開示する必要がないとし、雅子さんの全面敗訴となった。大阪地裁は判決理由として、「捜査手法や対象が推知され証拠隠滅が容易になるなど、将来の刑事事件の捜査に支障が及ぶ恐れがある」と述べた。


財務省が検察に提出した文書があるかどうかを開示すると、なぜ将来の刑事事件の捜査に悪影響が出るのか、私にはまったく理解できない。この事件では、財務省本省の命令で、公務員として最もやってはいけない決裁文書の改ざんという重大犯罪が行われ、しかも一人の財務局職員が苦悩の中、命を落としているのだ。真実を明らかにするほうが、同様の事件発生を抑制できるのではないか。

事件を葬ろうとしている財務省

こうした事態を受けて、「財務省と裁判所はグルではないのか」という批判も高まっている。しかし、私はグルというより、検察も裁判所も財務省に隷属しているのだと考えている。裁判官も検察官も公務員だ。だから、彼らの活動を支える予算は、すべて財務省が握っている。財務省を敵に回したら、仕事ができなくなってしまうのだ。

しかも財務省は、事件を闇に葬ろうとしているとしか思えない。佐川元理財局長は、刑事責任を問われていない。それどころか懲戒免職ではなく、依願退職扱いとなって、4999万円もの退職金を受け取っている。さらに、裁判で佐川元局長の代理人は、佐川氏が早く裁判を終結させて再就職をしたいと考えていると述べている。退職金に加えて天下りまで目論んでいるのだろう。


赤木俊夫さんは亡くなる前に手記を残していて、そこにはこう書かれていた。「最後は下部がしっぽを切られる。なんて世の中だ」。


教科書には司法と立法と行政は、それぞれ独立する三権分立だと書かれている。だが、エリート中のエリートである財務官僚だけは別だ。彼らは司法の上に立ち、政治家を洗脳することで立法の上にも立っている。その地位は絶対君主に等しい。


そんなおかしなことがまかり通っているというのに、メディアの追及は、表面的なところにとどまっている。財務省は、メディアの上にも立っているということなのだろう。