本好きのリビドー/悦楽の1冊~『浅草迄』(河出書房新社刊:北野武 本体価格1300円)

表題作『浅草迄』の〝迄〟に注目だ。 文字通りそこに至る過程、というわけで、主たる舞台は従前から著者がさまざまな形で繰り返し語ってきた、芸人・ビートたけしを生み育んだ〝聖なる悪場所〟としての浅草ではない。人間・北野武の基礎が形成された誕生の地、足立区こそがもはや一種〝約束の土地〟じみて臭気と光輝をともに帯びた、本書の裏の主役なのではないか。 かつて三遊亭円丈が新作落語「悲しみは埼玉に向けて」でのマクラで、自らも住まう足立区、特に北千住の哀しさを〝日本の平壌、北千住。埼玉の隠し玄関、北千住...