本好きのリビドー/悦楽の1冊~『何はなくとも三木のり平―父の背中越しに見た戦後東京喜劇』(青土社:小林のり一/戸田学 本体価格2600円)

出不精の亡母が終生自慢気に語り誉れとしたのは、1988年に開業間もない東京ドームで最晩年の美空ひばりが敢行した〝不死鳥〟コンサートを客席で見届けた記憶だった。その意味で、たとえリアルタイムでその瞬間に立ち会えなくとも、せめて映像資料があくまで写真でなく動画でわずかでも残っていればと悔やまれる公演のいかに多いことか。 筆者にとっては暗黒舞踏派の開祖、土方巽とその一党が72年に集大成的に演じて語り継がれる『四季のための二十七晩』や、今や跡形もなき渋谷の小劇場「ジァン・ジァン」で俳優の中村伸郎...