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菅VS小池『緊急事態』発令の攻防…コロナ爆発&五輪中止でポスト管へ

菅政権、3月で退陣か…?
菅政権、3月で退陣か…? (C)週刊実話Web

「仮定のことは考えていません」。首都圏の1都3県に緊急事態宣言が再発令された翌日の1月8日、テレビ朝日の報道番組収録で菅義偉首相は、1カ月で収束できなかった場合の対応を問われ、きっぱりと言い切った。多くの有識者が「1カ月では困難だ」と明言しており、宣言の期限である2月7日以降、どうなるのかは全国民の関心事だ。

しかし、首相が語ったのはこれだけ。放送直後からネットのSNS上では「何も考えてないのか」「この期に及んで驚きだ」といった批判の書き込みが溢れた。番組では「これだけ増えると想像していたか」とも聞かれたが、これには「いやぁ、想像していませんでした」と答えた首相に、多くの視聴者が怒りを覚えたのは間違いない。

案の定、毎日新聞が16日に行った電話世論調査では、内閣支持率が前回2020年12月の40%から33%へ急落し、不支持率も57%に達した。内閣支持率は、通常国会が始まる1月には50%台に乗せておくのが「政権維持の鉄則」。衆参両院の予算委員会で野党の厳しい追及を受ける上、重要法案の多くは対決法案となって政権の体力をそぐ。不祥事やスキャンダルを抱えていれば、なおさらだ。

安倍晋三前首相は50%台の維持にとにかく腐心し、7年8カ月の長期政権を築いた。逆に過去20年間、50%を切ったまま通常国会に臨んだ政権は、その年の秋までに多くが退陣に追い込まれている。森、第1次安倍、福田、麻生各政権すべてがそうだった。民主党の菅直人、野田両政権も厳しい末路を迎えた。

菅内閣の支持率がここまで落ちた原因は、一にも二にも菅首相のコロナ対応のまずさにある。経済を優先して、自身が旗振り役となった「GoToキャンペーン」の推進にこだわり、コロナの感染爆発を食い止めることができなかったのは周知の通りだ。

それどころか、「勝負の3週間」(西村康稔経済再生担当相)と銘打ち、国民に会食の自粛を求めながら、自身は昼夜を問わずホテルなどで会食を続けた。首相秘書官との打ち合わせを含めると、その回数は40回以上。12月14日には東京・銀座の高級ステーキ店における自民党・二階俊博幹事長ら7人での忘年会に合流し、厳しい批判を浴びた。

クリスマスの段階での再発令決定は幻に…

首相のステーキ会食を境に、500~600人台に踏みとどまっていた東京の1日当たりの感染者数が増加に転じ、年明けに2400人を超す感染爆発を招いたのは「首相の失政以外、何ものでもない」(立憲民主党幹部)と言っていい。

ただ、首相は全くの無為無策だったわけではない。政府関係者が明かす。

「実は官邸内では、陽性者数が800人台に急増した12月24日、東京に緊急事態宣言を出すしかないとして急きょ調整に動いた」

首相も小池百合子都知事に自ら電話。宣言の実効部分となる飲食店の時短営業について「午後8時でお願いしたい」と直談判した。

しかし、小池氏は「他の方法で努力します」と拒否。官邸では、飲食店への休業補償の総額が莫大な金額になるので、国に負担を求めたのだろうと受け止めた。だが結局、首相は小池氏の説得も、宣言再発令の決断もできず、もうしばらく様子を見るとして、クリスマスの段階での再発令決定は幻に終わった。

新年を迎えても菅首相は、周囲に「もう判断しなきゃならないのかな」とつぶやくだけで、依然として煮え切らなかった。

“官邸”が迫った年末年始のメディア露出

一方、機を見るに敏な小池氏は、大みそかに東京の感染者が1337人と激増したことを受け、首都圏3知事と4人で内閣府に押し掛け、西村氏に宣言の再発令を求めた。西村氏は「要否を検討する」と伝えたが、首相は西村氏からの報告に「検討とまで言ったのか」と不快感を示し、西村氏との連携不足を露呈させた。

この段階に至っても決断できなかった首相が再発令を決めるのは、翌3日に西村氏と田村憲久厚生労働相、赤羽一嘉国土交通相、加藤勝信官房長官の4閣僚を公邸に呼んで協議した際だ。「もう出すしかないな」とボソッと話したという。

失地を回復したい首相は、12月中旬から正月を挟んでメディアへの露出を増やした。NHKをはじめ民放各局の報道番組に事前収録を含めて計6回出演。地元・テレビ神奈川の新春特番の収録や、朝日新聞の単独インタビューにも応じた。

だが、出演の多くは「ごり押し」だったようだ。

「うちには官邸側が出演したいと強く迫ってきました。官房長官時代にさんざん飲み食いをさせた番組幹部経由でした。社の上層部の指示で出演は事前収録とし、コロナで突っ込んだ質問はしないという条件も付きました」(民放の政治部記者)

得意のメディアコントロールだ。「御用マスコミ」と化すテレビ側も問題だが、首相はといえば、手持ちの紙を読んでいるかのような、抑揚のない一本調子でボソボソと話すだけ。先のテレビ局には「かなりの数の抗議電話が寄せられた」(同)ように、逆効果だったのは明らかだ。

菅政権の低迷ぶりを受け、永田町で急浮上しているのが「3月政変」のシナリオだ。菅首相は1月18日召集の通常国会での施政方針演説で「深刻な状況にある新型コロナウイルス感染症を1日も早く収束させます」と決意を強調したが、コロナを抑え込めなければ、菅首相の責任問題に発展するのは確実だからだ。

ワクチン供給への懸念は経済に悪影響必至

首相が頼むワクチンは、米ファイザー製が承認手続きに入ったばかり。英アストラゼネカと米モデルナのワクチンは申請すら行われておらず、いずれも認可は4月以降にずれ込む見通しだ。政府は6月までに全国民に十分なワクチンを供給する方針だが、「非常に難しい。医療従事者と高齢者に行き渡ればいい方だ」(政府関係者)という。

コロナ収束とワクチン供給への懸念は経済に悪影響を与えるのは明らかだ。緊急事態宣言の対象地域が11都府県に拡大したことで、持ち直しつつあった国内総生産(GDP)は2021年1-3月期にマイナスに転じる可能性が高い。2万8000円を超えた日経平均株価が菅政権を何とか支えている状況だが、腰折れすればそれもなくなる。

さらに、政権にトドメを刺しかねないのは東京五輪・パラリンピックだ。開催の最終的な可否の問題が、国際オリンピック委員会(IOC)が1月27日に開く理事会と、2月に行われる東京五輪組織委員会との会合で話し合われる見通しだからだ。

日本以上に感染拡大が深刻な米国や欧州では開催への悲観論が強まりつつあり、国際競技団体からの積極論も聞かれなくなった。首相は施政方針演説で「実現する決意だ」と訴えたが、7月23日の開会式まで半年を切り、通常の形での開催はもはや絶望的だ。

自民党関係者が話す。

「感染拡大が長期化し、五輪も中止となれば、21年度予算成立をもって菅降ろしが本格化するでしょう。3月末の辞任もあり得ます」

注目が集まるのはポスト菅候補の動き

4月25日には衆参両院の2補欠選挙がある。自民党は、収賄罪で在宅起訴された吉川貴盛元農相の議員辞職に伴う衆院北海道2区への候補擁立を見送り、不戦敗を決めたが、先の関係者によると「惨敗による政局化を避けたい二階氏の判断」という。

立憲民主党の羽田雄一郎参院幹事長の死去を受け、参院長野補選は同県政に影響力を持つ自民党竹下派が新人候補を立てる構え。しかし、派内では「菅首相のままでは負ける」(中堅)の声が大半。完敗なら首相の命運はいよいよ尽きる。

10月21日に任期満了を迎える衆院選は、菅首相のままでは戦えないとして、退陣となる可能性が高い。自民党総裁選が9月に行われ、新しい首相の下で解散・総選挙になるのは間違いない。

こうした展開を見据え、注目が集まるのはポスト菅候補の動きだ。昨年9月の自民党総裁選で菅首相と争った岸田文雄前政調会長、石破茂元幹事長に加え、河野太郎行政改革担当相や小泉進次郎環境相、野田聖子幹事長代行といった面々だ。

この中で誰が有力候補にのし上がってくるのか。菅政権が崩壊すれば政権樹立の立役者となった二階氏の影響力は大きく低下するため、「先祖返り」して、安倍前首相と麻生太郎副総理兼財務相の「安倍・麻生連合」が後継選びの主導権を握るというのが、自民党内の大方の見方だ。この場合、2人に近い岸田氏が有力となる。

ただ、安倍氏の出身派閥である細田派では、下村博文政調会長と稲田朋美元防衛相が出馬に意欲を示し、既に派内グループを形成している。出馬への動きを強めれば、安倍氏直系で次のリーダーと目される西村氏と萩生田光一文部科学相との軋轢が生じかねない。

岸田氏はこれまで指導力に疑問符を付けられ、「選挙の顔にならない」と評されてきた。それだけに細田派がまとまらず、安倍氏の後押しが利かなければ、代わりに麻生氏が後ろ盾になる形で、同派の河野氏が一躍最右翼として浮上する展開もありうる。

菅首相“起死回生シナリオ”株価4万円台

一方で、先の総裁選は党員投票を省いて批判を集めたため、今回は党員を交えた本格的な総裁選になる可能性がある。すると、ここで浮かび上がるのは世論調査でなお人気が高い石破氏だ。総裁選での大敗を受けて「謹慎中」の身だが、二階派など一部の派閥が推せば戦える。河野氏との一騎打ちになれば、いい勝負になりそうだ。

ただ、石破氏は党内基盤が弱く、河野氏は一匹狼で力量は未知数。ウルトラCで麻生氏の再登板も取り沙汰されるが、さすがに自民党内でも「賞味期限切れ」との声がもっぱらだ。

もちろん、菅首相には起死回生のシナリオもある。最大の支援要因は株価だ。過去20年間、株価の上昇局面で時の政権が国政選挙で負けたことはほぼない。バイデン米政権の発足で巨額の財政出動への期待から、株価が3万円の大台を超え、4万円を目指す可能性はある。ドルベースでは1989年12月の過去最高値を約31年ぶりに更新した。

コロナ抑制に成功し、ワクチン接種も予定通りにスタート、さらに五輪開催が決まれば、首相にさらなる追い風が吹く。日本だけでなく世界の空気が劇的に変わるだろう。

予算成立で経済を下支えし、日銀も大規模金融緩和を続ける。脱炭素やデジタル化、携帯電話料金の引き下げなど「スガノミクス」の推進で勢いを付ける。衆参2補選と都議選に勝ち、支持率が50%台を回復できれば、五輪後にいよいよ衆院解散に踏み切る――。勝利すれば総裁選は無投票で再選となり、長期政権になるという算段だ。

果たして、当初の目論見通りになるのか、それとも虚しい夢想に終わるのかは、コロナ次第だ。

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