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運送業界が“3K労働”脱却に挑む〜企業経済深層レポート

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企業経済深層レポート (C)週刊実話Web

宅配便やスーパーなどの商品運搬に欠かせない配送システムが、来年から正常に機能しなくなる可能性が高まっている。それが「2024年問題」と呼ばれる〝物流危機〟だ。

シンクタンク関係者が解説する。

「最大の要因は働き方改革の一環で、来年4月から国がトラックドライバーの労働環境の規制強化に乗り出すこと。具体的にはドライバーの残業時間の上限を月80時間、年間960時間に規制。違反業者には車両使用停止などの厳しい処分が適用される。そのため、同制度の施行で物流が大混乱を招くとみられているのです」

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国がこうした政策に乗り出した背景には、近年さらに悪化しつつある運送業界の労働環境があるという。

業界関係者がこう語る。

「運送業界は慢性的な人手不足に喘いできたが『Amazon』人気や、コロナ禍の巣ごもり需要の高まりもあり仕事は年々きつくなる一方。しかも、卸やスーパーの荷は大半が朝到着で、夜通し車を走らせ現場で朝を待つのが通例です。昼間は車内で短時間仮眠を取るドライバーも多いが、食事はおにぎりやカップ麺など炭水化物一色。九州―東京間往復ともなれば1週間は自宅に帰れないばかりか荷の積み下ろしもきつく、体調を崩す者も多いのです」

『全日本トラック協会』の調べによれは、20年度の大型トラックドライバーの平均年間労働時間は、全産業が2100時間なのに対し2532時間。加えて、厚生労働省の発表では21年度の脳・心臓疾患を原因とする労災認定件数は172件あったが、うち運転手らが従事する「道路貨物運送業」は最多の56件で全体の約33%を占めているのだ。

配達料値上げで賃金アップを

無論、給与面も厚遇とは言い難い。厚労省の21年度の調査では、全産業の平均年収が489万円なのに対し、トラックドライバーは463万円。基本給が安いため、残業代で稼ぐシステムが定着しているという。

「3K労働の印象の強い運送業界は高齢化の一途。21年の厚労省の調査では全産業の平均年齢が43.2歳なのに対し、大型トラック運転手は49.9歳だった。そのため物流の崩壊を危惧した国が、ショック療法として規制に乗り出したのです」(経営コンサルタント)

気になるのは、この規制強化が招く運送システムの混乱をどう克服するかだが、すでに業界ではさまざまな取り組みが行われつつある。

その筆頭は、ドライバーたちの賃上げだ。

「『ヤマト運輸』(東京)と『佐川急便』(京都)は今年4月から宅配便などを8〜10%値上げし、ドライバー賃金をアップすることで人手の確保と労働時間の削減に対応する。『福山通運』(広島)も個人向けを1〜2%、企業の積み荷を10%値上げして対応する予定です」(運送業コンサルタント)

一方、長時間労働を避ける工夫としては長距離輸送の中間地点にターミナルを設ける動きもある。例えば東京―大阪間なら静岡県浜松市までA社のドライバーが荷物を運び、そこでB社のドライバーがコンテナを引き継ぐという具合だ。

「ひとりなら2日がかりで運ぶ荷が、中間地点で引継ぐことで日帰りが可能となるのです」(同)

また、陸路以外の選択肢も模索されている。航空業界関係者がこう明かす。

「『ヤマト運輸』は、『日本航空』とタイアップ。10トントラック5〜6台分の荷を一度に運べるようジャンボ機を貨物用に改修し、24年4月から東京(成田・羽田)―北九州、東京(同)―新千歳など4路線で運航する。また、全農の鶏肉加工を担う『全農チキンフーズ』(東京)は、関西から東日本各地への輸送をフェリーに変更。さらに『西濃運輸』(岐阜)は24年を見越して数年前から、名古屋―福岡間の輸送に鉄道を利用し始めた。1回で大型トラック60台分が運べるそうです」

ドライバー育成にも努める

ちなみに、業界では女性ドライバーの積極登用も模索されているが、それらを含むドライバーの育成を担う企業も登場している。

「それがドライバー不足の解消のため、昨年秋に埼玉県の自動車教習所『川越自動車学校』を買収した食品輸送会社『アサヒロジスティクス』(埼玉)です。同社はこの学校以外にもS字カーブやクランク、坂道などを持つ大型研修コースや運転シミュレーターを所有し、ドライバーの育成に努めているのです」(業界関係者)

もっとも、近年はこれに加えてITによる改善策も注目を集めている。その代表格が「物流マッチングサービス」だ。

「このサービスは荷物を送りたい業者に現在空車のトラックを紹介してくれるシステム。アプリを導入すると、全国のトラックの空車状況が一目で分かり、荷を届けて空で帰るドライバーなども紹介してくれるため、業界全体の稼働率もアップすると評判なのです」(同)

また、宅配業界は再配達率も高いが、その新たな担い手として今年4月からは配送ロボットが都内で実用化される予定だという。

こうしたさまざまな取り組みを考えれば、「2024年問題」はピンチでなく明日の物流を発展させるチャンスかもしれないのだ。

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