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米国株バブル崩壊の予兆~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

3月10日に米国のシリコンバレー銀行が経営破たんした。預金が急速に流出して、資金繰りがつかなくなったからだ。同銀行は特殊な地方銀行だった。高金利を提示することでシリコンバレーのスタートアップ企業から預金を集め、急成長してきたのだ。スタートアップ企業は株式公開をした途端、大金が転がり込んでくる。その資金をすぐに事業に使う必要がないから、取りあえず銀行に預けておくのだ。一方で、預金が急拡大したため融資の拡大が追い付かず、シリコンバレー銀行は資産の7割が国債中心の債券だった。


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そこに二つの環境変化が襲った。一つは株式新規公開市場の低迷だ。四半世紀にわたり米国経済をけん引してきたIT産業に、逆風が吹き始めたのだ。『フェイスブック』を運営するメタ、ネット通販王者のアマゾンなど、アメリカの大手IT企業だけで今年の雇用削減は13万7000人を数えている。いま起きているのは、第二次ITバブル崩壊だ。そんな状況で簡単に新規公開が進むはずがない。

もう一つの変化は、米国の金融引き締めだ。物価高に業を煮やしたFRE(米連邦準備制度理事会)は、これまで急速に金利を引き上げてきた。金利が上がれば、債券の価格は下がる。シリコンバレー銀行は預金の急速な流出のなかで、債券の含み損が表面化してしまったのだ。信用不安は連鎖し、2日後には暗号資産関連企業との取引が多かったシグネチャー銀行も経営破たんした。

米国の預金保護は本来25万ドルが限度だが、米国政府は即座に両行の預金の全額保護を打ち出し、信用不安の拡大阻止に動いた。しかし、信用不安はじわじわと拡大し、最後の貸し手であるFREの市中銀行への融資は、1528億ドルとリーマンショック時を超えて過去最多になった。

リーマンショック前夜と似た状況に

さらに16日、米国の大手11銀行が、株価急落に見舞われたファースト・リパブリック銀行の資金繰りを支えるため、合計300億ドルの預金を預け入れると発表した。信用不安は海外にも飛び火して、株価が暴落したスイスの大手銀行クレディ・スイスも、金融当局が主導する形で、ライバルのUBSに買収されることになった。2008年のリーマンショック前夜に似た状況になってきたのだ。

私は、米国のFRBが金融政策を間違えたのだと考えている。昨年6月に前年同月比で9.1%上昇した消費者物価指数を抑制するため、FRBは急速な利上げを重ねてきた。利上げは需要の抑制効果があるが、今回のインフレは需要超過が原因のデマンドプル型が主因ではなく、資源価格高騰が主因のコストプッシュ型だ。だから、物価抑制のためには、食糧やエネルギーの供給増を図る必要があった。それをせずに金融を締めれば、景気が失速するのだ。

ただ、良いか悪いかは別にして、今回のFRBの金融引き締めはバブル崩壊の引き金となる可能性が高い。例えば、株式時価総額をGDP(国内総生産)で除して計算される「バフェット指数」は100%が適正といわれるなか、米国の同指数はこれまで150%程度と5割も割高になっていた。

リーマンショックの経験では、米国株の下落とともに大幅なドル安が進んだ。円建てで見ると、ダブルパンチの値下がりとなる。いま米国株へ投資することは、とても危険な行動なのだ。

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