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『性産業“裏”偉人伝』第4回/伝説のソープランド講師~ノンフィクションライター・八木澤高明

(画像)metamorworks / shutterstock

第4回/伝説のソープランド講師(美鈴・40代・都内在住)

「もう、何これって、今まで経験したことのない異次元の気持ち良さだったんです。何をされているのかまったく分からなくて、初めての経験でしたね」

少し興奮気味に語るのは、10年以上にわたって、ソープランドで働いてきた、かな子である。


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彼女が語る異次元の気持ち良さというのは、ソープランドで働き始めて5年ほどが過ぎた頃に受けた、マットプレイ講習に関することである。

ソープランドでは、主に新人のソープ嬢に対して、挨拶の仕方から始まり、サービスの肝とも言える客とのマットプレイのやり方などについて、講習が行われることが一般的だ。

講師は、スタッフの男性が務めることもあれば、経験豊富なソープ嬢が務めることもある。かな子の講師は元ソープ嬢の女性だった。

かな子はベテランの域に差し掛かるソープ嬢ということもあり、講習を受けるのは、二度目だった。

「新人のときに講習は受けていますし、ソープ嬢としての経験も積んでいたので、『講習どう?』って言われても、乗り気じゃなかったんです。こっちもプライドはありますし、何度も断っていたんですけど、一度受けたら誘われることもないかなと思って受けたんです」

何の期待もせずに受けた講習は、マットプレイの概念を覆すものだった。

常に指と足が動き、一カ所に留まることなく、水のように流れていく。だからといって、あっさりとしているわけではなく、常に体のどこかを刺激し続けていて、これまで経験したことのない快感だった。

これまで、5000人以上の男たちを相手にしてきたソープ嬢のかな子をして仰天させた講師の名前は、美鈴という。年齢は40代なのだが、肌には艶があって、年齢よりはかなり若く見える。

講師として10年近い経験がある美鈴だが、現役のソープ嬢を驚かすテクニックはどのようにして生まれたのだろうか。

「型にはめないということですね。いつも決まったパターンでやるのはダメですね。人によっても変えます。常連のお客さんなら、その日の雰囲気とかで、舐める場所を変えたりします。決まりを作らないで、変幻自在にやることです」

美鈴は、プレイの内容以上に、客とのコミュニケーションが重要だという。

「せっかくお店に来ていただいたので、楽しんで帰ってもらいたいんです。嫌なお客さんも必ずいるものなんですけど、嫌だ嫌だと思わないで、『必ず何か、一個でいいんで良いところを見つけてあげてね』と女の子には言います。そうすると、少しは気が楽になって、向こうに伝わりますね」

以前、何人かのソープ嬢に取材したことがあったが、プレイの内容もさることながら、客に真摯に向き合うことが大事だと言っていたことを思い出した。一流のソープ嬢は誰しも同じことを考えている。

「ソープランドで、短い時間ですが、お客様に心も体も寄り添うことは、いずれこの仕事を辞めて、別の仕事をする上でも役に立つことだと私は思っているんですよ」

驚異のリピート率100%を達成!

美鈴が講師を任されるようになったのは、彼女の心がけと仕事ぶりが店に評価されてのことだった。

彼女の名は今でも店で伝説となっているのだが、その由来はリピート率100%を記録したことにあった。一度、彼女の接客を経験してしまうと、客は必ず戻って来たという。

そんな美鈴がソープ嬢になったのは、23歳のときだった。

「高収入の仕事がしたいと思って仕事を探していたら、目に止まったのがソープだったんです。興味があったので、それまで風俗で働いたことはなかったですが、始めてみたんです」

ソープランドの仕事は、彼女の水に合い、なんの不満も感じなかった。

ただ、大きな問題となったのは、社長の存在だった。

「毎日セクハラされたんです。昼も夜も食事に付き合わされて、体を求められたり…。当時は、嫌われたら仕事ができなくなるかと思って拒めなかったんです」

なんとか社長のセクハラから逃れようと、彼女なりに努力したことがあった。それは、一人でも多く客を取ることだった。

「お客さんの予約が入れば、社長からは逃げることができたんです。嫌すぎて、閃いた感じですかね。そのために努力しましたね。本当にセクハラが嫌だったから必死でした」

禍を力に変えることが、ソープで働くことの原動力となった。

「まずは、ソープという空間を取っ払って、恋人でも奥さんでもないですから、世の中のしがらみから抜けて、ただの男と女になるということを心がけました。高いお金を払って来てくださっているわけですけど、接し方によって、安いと思わせたかったんです」

彼女はセクハラ社長のいるソープに10年勤めた。一度、ソープを辞めて昼間の仕事をしていたが、セクハラ社長がいなくなると、「接客術を伝えて欲しい」と、講師として呼び戻されたのだった。

これまで、500人ほどの女性たちに彼女が培ったものを伝えてきた。長年、講師をしてきたが、働く女性たちも変化しているという。

「昔はホスト通いをして、借金を返すために働く子が多かったですけど、最近はお金のためじゃなくて、楽しいから働くという女性が増えましたね。そこが大きな変化です」

ただ、接客術というのは普遍のもので、彼女の教えというものは、脈々と受け継がれていくことだろう。

八木澤高明(やぎさわ・たかあき)
神奈川県横浜市出身。写真週刊誌勤務を経てフリーに。『マオキッズ毛沢東のこどもたちを巡る旅』で第19回 小学館ノンフィクション大賞の優秀賞を受賞。著書多数。

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