『完全ドキュメント北九州監禁連続殺人事件』文藝春秋
『完全ドキュメント北九州監禁連続殺人事件』文藝春秋

『完全ドキュメント北九州監禁連続殺人事件』著者:小野一光~話題の1冊☆著者インタビュー

小野一光(おの・いっこう) 1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心に取材。本誌で『昭和猟奇事件「大捜査線」』を連載中。
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――起訴された案件だけでも7人が殺されているといったおぞましい事件ですが、犯人・松永太(死刑囚)と面会したときの印象は、いかがでしたか?


小野 松永は内縁の妻である緒方純子とともに、緒方の親族6人と監禁していた少女の父親を殺害(1件は傷害致死)しています。その手法は自らの手を汚すことなく、追い込んだ家族同士に殺害させるという残酷なもの。しかし、その残酷な犯行内容とは裏腹に、拘置所の面会室に現れた松永は、屈託のない笑顔を浮かべ、饒舌に自らの無罪を主張していました。まずはそのコントラストに驚くとともに、彼の明るさに底知れぬ恐怖を感じました。


――松永は一族を虐待しながら〝マインドコントロール〟していました。


小野 松永は集団のなかで、常に誰か1人をターゲットに決めて、通電などで虐待。その他の者は、彼に従わなければ次は自分がターゲットになるかもしれないという恐怖心で、言いなりになっていました。そのなかで1人が死亡すると、残りの者が殺害に加わった者として松永に責められ、自らの罪の意識でさらに逃げられなくなってしまう。そうした〝負の連鎖〟が続き、結果的に大量殺人が起きてしまったのです。

逮捕から20年という節目の集大成

――松永とはどのような手紙のやりとりをしたのでしょうか?

小野 松永は面会時もそうですが、手紙のなかでも常に裁判が不当なものであると訴え、自身は無実であると主張していました。文面は常にその繰り返しで、反省の言葉が書かれていたことは今まで一度もありません。私は、その主張を週刊誌に話してみればどうかと尋ねたのですが、週刊誌にはこれまで嘘ばかりを書かれてきたから嫌だとの返事でした。


――被害者の遺族は今、どのような生活を送っているのでしょうか?


小野 昨年は松永と緒方の逮捕から20年という年でした。ご遺族はみなお年を召されていますが、処罰感情は当時と変わらぬままです。ただ、なかには認知症を発症してしまった方もいて、その方の配偶者は、「せめて記憶があるうちに、松永の死刑を執行してほしかった」との感想を洩らしています。


松永と緒方による『北九州監禁連続殺人事件』は、現在も〝最凶の事件〟として知られています。私はこの事件が発覚した2日後に現場に入り、事あるごとに取材を続けてきました。それから20年という節目を経て、『完全ドキュメント』という形で、集大成となる本をまとめられたことをうれしく感じています。


(聞き手/程原ケン)