米軍による“斬首作戦”恐れる金正恩「核かばん」チラ見せの真意とは
3月12日、北朝鮮の金正恩総書記が朝鮮労働党中央軍事委員会の8期5回拡大会議を開催した際、朴寿日軍総参謀長が黒いブリーフケースを持って会議場入りした。ブリーフケースは朝鮮中央テレビのニュース映像で確認されたものだが、これが遠隔で核ミサイルを発射するための「核かばん」ではないかと物議を醸している。
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「北朝鮮の高官は会議場に入る際、通常は書類の入ったクリアファイルや冊子だけを持っています。ブリーフケース持参は異例のことですが、朝鮮中央テレビは北朝鮮の国営メディアで、正恩氏の許可なしに映像を流すことはできません。核かばんかどうかの真偽は不明ですが、これ見よがしに映し出した感はあります」(軍事アナリスト)
昨春、ウクライナに侵攻した直後、ロシアのプーチン大統領が北大西洋条約機構(NATO)の軍事介入をけん制するため、やたらと側近に核かばんを持たせていたのは記憶に新しい。
「今年1月に正恩氏の実妹の金与正党副部長が『われわれ(北朝鮮)はロシアの人民や軍隊と、いつも同じ塹壕で戦う』と発表したくらいですから、核かばんのチラ見せを模倣した可能性は捨てきれません」(同)
3月13日から10日間にわたり、朝鮮半島有事に備えた米韓合同軍事演習が実施された。野外機動訓練が5年ぶりに復活し、大隊級から連隊級に規模が拡大したほか、『B-1B』戦略爆撃機や『B-52』核戦略爆撃機などが演習に参加。原子力空母や原子力潜水艦まで投入された。
夫婦の写真集は党員の教材に
米韓は「恒例の防御訓練」と説明していたが、北朝鮮は「即先制攻撃に移れる」とみて高度な警戒態勢を敷いた。確かに、今回の演習には先鋭の米韓特殊部隊が参加し、「チーク・ナイフ」と名付けられた斬首作戦なども訓練されていたから、正恩氏が恐れるのも無理はない。「正恩氏はしばらく潜伏するだろうとの分析もありましたが、演習のさなかの16日、北朝鮮メディアは正恩氏が次女の主愛を伴い、大陸間弾道ミサイル(ICBM)『火星17』の発射訓練を指導したと報じました。ただし、掲載された写真は後ろ向きなので、合成や撮影時期が異なっていることも考えられます」(同)
16日に発射された『火星17』は、固体燃料が使われた多弾頭ミサイルの可能性も指摘されている。とにかく北朝鮮は、ミサイル発射を繰り返すことでしか米韓に存在感を示すことができないのだ。
「正恩氏の祖父の金日成主席は、約30年前に『演習が終わると軍用石油がほぼなくなり、兵器も消耗する。その回復は大変だ』と日本の北朝鮮訪問団にこぼしたことがあります。朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の軍用石油は今や当時の4分の1程度しかないとされ、そんな量では戦争などできません」(北朝鮮ウオッチャー)
軍事力ではとても米韓に太刀打ちできそうもない北朝鮮だが、その事実を覆い隠すためかイメージ戦略に躍起になっている。最近、特に注目されたのが、正恩氏と李雪主夫人のツーショットを中心とした約100ページの写真集だ。
この写真集は北朝鮮の革命の聖地である「白頭山」で撮影されたもので、正恩氏と雪主夫人が兵士らを激励している写真や、2人が雪の降る中で仲むつまじく焚火に当たり、談笑している写真などが収められている。中国の習近平国家主席夫妻との記念写真なども掲載されており、党員の学習会などで教材として使われているという。
主愛は“大奥”の争いのトリガーに
北朝鮮メディアは2018年ごろから、雪主夫人を「尊敬されるファーストレディー」と呼び始めた。この敬称はそれまで日成氏の妻で「国母」とされる金正淑夫人にしか使われておらず、これが雪主夫人に使われたことについては、国母としての正統性を誇示する狙いがあるようだ。「雪主夫人は2009年に正恩氏と結婚したものの、妻として公式発表されたのは12年のことでした。3年間のブランクがあるのは、夫人がかつては流行歌手で、『最高指導者の子息とは釣り合わない』との意見を沈静化させるためとみられています。歌手のイメージはいまだ民衆の間に残っており、それを払拭して神格化したい意図が、写真集から透けて見えますね」(同)
雪主夫人と娘の主愛の公開は、金王朝の〝大奥〟における与正氏との権力争いに起因するとも言われる。
「与正氏の政治的権力が強まったことで、雪主夫人は自分の子供が後継ライン上にいることを明確にしたわけです。ただし、主愛が正恩氏の後継者という見方については、懐疑的に見なければなりません。まだ幼いうえ、『愛するお子様』などの称号が必ずしも次期指導者として、最も適任者であることを示す表現とは思えないからです」(同)
正恩氏が米軍の〝斬首〟におびえ、夫人や娘を盾にしてミサイル発射を繰り返すほど、北朝鮮に対する制裁は強化されていく。正恩氏が抱えるストレスは深刻になる一方で、その爆発に備えてさらなる警戒を怠ってはならない。
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