森永卓郎 (C)週刊実話Web
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“消費税引き下げ”を打ち出せない立憲民主党~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

立憲民主党の泉健太代表が3月9日の党会合で、公明党が低所得の子育て世帯を対象に現金を再支給する案を示したことに対して、「また線引きをし、分断をし、一部の方々への給付かと。二重に三重に残念な思いをしている」と痛烈に批判した。ところが、直後に立憲民主党自身が同様の法案を提出予定だということが発覚し、泉代表は発言の撤回と謝罪に追い込まれた。


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ただ、私は泉代表ではなく、長妻昭氏をトップとする立憲民主党の政務調査会のほうがおかしいと思う。3月10日に提出された立憲の「低所得子育て世帯給付金」再支給法案は、昨年4月に政府が低所得の子育て世帯を対象に支給した一律5万円給付を、同内容で再給付するというものだ。ただ、立憲はこれまで所得制限に一貫して反対してきた。子育てを支援するのに親の所得水準は関係ないという立場だ。


もし、本当に少子化を止めようと思うのであれば、その考えは正しい。子供を大学まで出そうとすると、2000万円程度の教育費がかかる。3人目、4人目の子供を産み、育てようとしたら、それなりの所得が必要になるからだ。


そして、もっと問題なことは、今回の法案が追加の物価高対策の一環として準備されたことだ。1月の実質賃金は前年同月比4.1%のマイナスと、2014年に消費税を8%に引き上げたとき以来、8年8カ月ぶりの大きな減少となった。この物価高の被害を受けているのは、低所得の子育て世帯だけではなく、全国民である。普通に考えれば、一部の国民だけを助けるのはどう考えてもおかしいのだ。

財務省に対する“忖度”が大きい

予備費の使い残しは5兆円もあるのだから、例えば消費税率を8%に戻せばよい。1年間8%に戻しても、そのために必要となる予算は5兆円で済む。消費税には低所得者ほど負担が重くなる逆進性があるから、低所得者対策にもなる。

なぜそうした対策が打ち出せないのかと言えば、財務省への忖度だろう。財務省は、何がなんでも消費税率の引き下げだけは絶対に許さない。一度下げると、再度引き上げるのが大変になるからだ。消費税率の引き下げは大きな効果を持つから、再度の引き上げに対してはますます国民が抵抗することになる。


岸田政権の内閣支持率が低迷しても、立憲の支持率がほとんど上がらない最大の原因は、自民党との対立軸が明確でないことだ。いまや完全に財務省の傀儡と化した岸田政権との対立軸をつくるのであれば、立憲が打ち出すべき政策は前回の参議院選挙と同じく、「消費税率の引き下げ」が最適なのは明らかだ。


ところが、立憲の枝野幸男前代表は昨年11月12日の講演で、一昨年10月の衆院選の際に消費税の引き下げを訴えたことについて「政治的に間違いだったと反省している」と述べている。また、立憲の「低所得子育て世帯給付金」再支給法案の提出者には、1期生、2期生の若手議員の名前がずらりと並んでいる。つまり、立憲は上から下まで、多くの議員が財務省思想に染まってしまっているのだ。


かつて「アベノミクス」が完全にうまくいかなかった原因が、二度の消費税増税を中心とする財政緊縮であることは、データを見れば明らかだ。多くの経済学者も、そう主張している。このまま財務省に寄り添い続ける限り、立憲の地盤沈下は止まらないだろう。