(画像)Lucky Business/Shutterstock
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『性産業“裏”偉人伝』第3回/障害者のセックスパートナー~ノンフィクションライター・八木澤高明

見た目の派手さとは裏腹に、落ち着いた口調でそう語るのは、風俗からパパ活などを10年以上続けているユア(32)という女性である。


私は、東京の御徒町にある喫茶店で話を聞いていた。その日の店内は満席の状態で、隣のテーブルでは、スーツ姿の男性がパソコンを開いていたのだが、私たちの刺激的な会話が気になるのだろうか、時おり、控えめな視線を彼女の方に向けた。


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ユアもその視線に気づいているに違いないが、全く気にする素振りは見せずに、冷静に話を続けた。そんな彼女の姿からは、自分の生業に対するプライドのようなものすら感じたのだった。


私が彼女に話を聞きたいと思ったのは、冒頭のコメントにあるように、風俗嬢として、長期にわたって障害者と関わったからだった。ユアはどのように男性と知り合ったのだろうか。


「パパ活をする女の子が利用するサイトがあるんですけど、そこで知り合ったんです」


相手の男性は、最初に自分が障害者であることを打ち明けたという。


「筋ジストロフィーで、手足が動かなくなってしまい、今では電動車椅子で、母親と一緒に生活していると言われたんです」


筋肉が壊死して運動障害を主症状とする筋ジストロフィーは、発生の原因も十分に解明されていないだけでなく、治療法のない難病である。そのような男性の相手をすることは、重荷だと考えなかったのか。


「誰か他の女の子に紹介して、紹介料を稼げばいいかなって、軽い感じで会いに行きました。そうしたら、相手はお金持ちだし、しっかりとお手当を払ってくれそうなので、自分が相手をしようと思ったんです」


最初、男性の印象はどうだったのだろうか。


「あれっと思ったんです。病気で食欲とかもないだろうから、痩せている人かと思ったら、デブだったんです。手足が動かないのは可哀想でしたが、あまり悲壮感というものは感じなかったですね」


相手をするに当たって、ユアは報酬に関しても大まかに取り決めた。2万円が基本料金で、ヘルパーさんを伴って外食に出かけたら1万円、夜の相手をしたら1万円などと加算するというものだった。それ以外にも、買い物やコンサートに行ったり、何か外出したりすることがあれば、その都度、現金を加算してくれたという。

2時間で5回…下はすごく元気

週に1日は、男性の家に通うという約束をした。会えば、ほぼ毎回体を求めてきたから、少なくとも1日に3万円の収入になったという。手足は不自由だったが、性欲はかなり強かったと話す。

「自分でも、『性欲は強いんだ』と言っていましたが、2時間で5回ぐらいするんですよ。私と会う前は、デリヘルを呼んだりしていたみたいです。手足は動かないのに、下だけはすごく元気でした」


男性からしてみれば、ユアの存在は性欲を満たすだけでなく、日常生活においても徐々に欠かせないものになっていったようだった。


「家に行ったときにご飯を作ってあげたりしたら、彼のお母さんからは、すごい感謝されました。そして、だんだんお母さんからも、息子のことをよろしくみたいな感じで、頼られるようになったんです」


母親は、当然ながらユアが金銭の関係があった上で家に来ていることを知っていた。それでも、週に一度とはいえ、家に来てくれることを喜んでくれた。そして、時にはリビングで世間話をすることもあった。


男性とユアは、ヘルパーさんを伴って、日帰りで自宅周辺の観光地を訪ねるだけでなく、時には温泉旅行に行くこともあった。ユアからしてみれば、それらの活動はビジネス以外の何ものでもないのだが、男性にとっては、叶わぬ恋とは薄々知りつつも、気持ちは恋愛モードに入っていた。


そのうち、男性の方から、週に一度ではなくもっと来てくれないかとお願いされるようになった。


「お金ももっと払うと言われましたが、それは断りました。当時、毎日朝から晩までLINEが来るようになって、精神的にきつくなっていたんです。彼だけでなく、お母さんも私にいて欲しいという気持ちがあったと思います」


男性と出会って1年が経った頃、ユアはもう会わないことに決めた。これ以上、関係を持ち続けることがつらくなったのだ。また、男性に叶わぬ願望を抱かせたくないという思いもあった。


ユアが契約の打ち切りを告げると、男性は特に抵抗することもなく、手切れ金まで払ってくれて、彼女の申し出を了承してくれたという。彼の心の内は分からないが、好きになった女性への彼なりの誠意を示したかったのかもしれない。


ユアは、今もパパ活を続けている。手っ取り早く稼げる手段として、受け入れてくれる相手がいる限り、続けていくという。


男は、ユアに安らぎを求め、彼女は金銭を求めた。初めから交わることのない糸が、金銭を介して、近づいたのだった。


ユアは、交わることのない糸を探して、今日もネットをさまよっている。
八木澤高明(やぎさわ・たかあき) 神奈川県横浜市出身。写真週刊誌勤務を経てフリーに。『マオキッズ毛沢東のこどもたちを巡る旅』で第19回 小学館ノンフィクション大賞の優秀賞を受賞。著書多数。