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新型コロナの5類移行は正解なのか~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

5月8日から新型コロナウイルスの感染法上の位置づけが5類に移行することを受け、医療体制の見直し案が明らかになった。基本的には「限られた医療機関による特別な対応から、幅広い医療機関による自律的な通常の対応に移行する」という考え方だ。要は、新型コロナを特別扱いするのではなく、普通の病気として扱いましょうということである。


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本当に大丈夫なのだろうか。これまでもゴールデンウィーク明けには、新たな感染が拡大してきた。現在、収束に向かっている第8波は、死亡者数で見ると第7波よりずっと大きい。つまり、これまでのところ新型コロナは右肩上がりで拡大しているのだから、突然、第9波が消えてなくなるとは考えにくい。

そして、5類移行に伴って検査が有料になる。健康保険は適用されるが、数千円の自己負担は避けられない。当然、検査を受ける国民は減るだろう。結果的に感染者はかなり症状が重くなってから、医療機関を受診することになる。

5類移行後はコロナ患者の診療拒否が認められないから、最大6万4000の医療機関で診療が受けられると政府は言う。しかし、感染者を入院させる際は院内感染を防ぐため、少なくとも他の患者と同じ部屋にはできないので、感染が拡大すると一気に病床が不足する事態となる。これまでとは異なり、コロナ感染の疑いがある患者を他の患者と接触しないよう診療することが困難になるため、医療機関のなかで感染が広がる可能性もある。

ただ財政負担を減らすためでは!?

また、現時点でワクチンの接種体制については最終決定されていないが、おそらくワクチン接種は高齢者などを除き、年に1回だけになる可能性が高い。ワクチンの感染予防効果は、数カ月でほとんどなくなるといわれるから、ますます感染拡大のリスクが高まることになる。

入院病床を確保した病院に支払う交付金である「病床確保料」も、政府は削減していく方針だ。実はコロナ以降、この交付金によって多くの公立病院が黒字経営になっていた。しかし、交付金が削減されると公立病院が次々に赤字化し、その結果、中長期的には病床削減が行われる可能性が高まっていくのだ。

新型コロナによって我々は爆発的な感染拡大で病床が不足し、いとも簡単に医療崩壊が起きることを経験した。だから感染症から国民の命を守ろうと思ったら、普段から公的医療機関の病床を十分に確保しておく必要がある。しかし、政府の見直し案には、病床の拡充策がまったく含まれていないのだ。

今回の政府の見直し案を貫いている思想は、新型コロナ対策にかけてきた財政負担を一気に減らそうというものだ。もちろん、このまま新型コロナが終息すれば、それでもいいのかもしれないが、万が一、感染の第9波が発生したときには、壊滅的な被害が国民生活に及ぶことになる。岸田政権は、財政緊縮のために国民の命を危機にさらす決断をしたということだろう。

ただ、第9波で膨大な死者が出たとしても、岸田政権は案外気にしないのかもしれない。財政負担が大きい高齢者を中心として、命を落とすことになるからだ。岸田文雄総理は「国民に不人気な政策でも、必要ならやる」と強調するが、あと10年で自分も後期高齢者になることに気付いていないのだろうか。

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