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『悲熊』(LINE Digital Frontier/税込1100円)~本好きのリビドー/昇天の1冊

『悲熊』(LINE Digital Frontier/税込1100円)
『悲熊』(LINEDigitalFrontier/税込1100円)

電子コミックサービスのLINEマンガで、『悲熊』というタイトルの作品が配信されている。〝ヒグマ〟ではなく〝悲熊〟。子熊を主人公としたクスッと笑えて考えさせられる、秀逸な作品だ。それが昨年10月に単行本化された。

親を亡くし、自活している子熊が人間社会と共存し、水産加工会社で働いているという設定。仕事は川で鮭を取ること。

だが、不器用なため失敗する。すると給料が減る。凹んでいると、仕事でけがをしたなら手当を支給すると会社が言った。喜んで支給金の封筒を開けると、中身はドングリだった。

熊なのに、収入があるからと税金を取られる。それなら選挙にも行けるだろうと投票所に行ったら、選挙権はなかった。

ホロリとさせ自然に笑みが…オトナ向けの寓話

前者は社会に数多いブラック企業、後者は税金徴収の不公平さと、選挙の投票率は極めて低いのに、本当に投票したい者ができないもどかしさなどを比喩し、社会の矛盾や理不尽を突いている。

本質は悲しい物語だ。ただし、主人公の子熊が健気に、懸命に生きる姿をユーモアを交えて描いているため、ホロリとさせ、かつ自然に笑みがこぼれる。オトナ向けの寓話といっていいだろう。

悲しいことがありながらも前向きに生きる子熊の姿は、コロナ禍における人の生き方のヒントになり得るかもしれない。緊急事態宣言の再発令で幕を開けた2021年に、ぜひ読みたい1冊だ。

(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)