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老後シニア世代は死ぬまで働かねばならない~企業経済深層レポート

企業経済深層レポート
企業経済深層レポート (C)週刊実話Web

〝老後レス社会〟――2年前、朝日新聞が「まもなく日本は悠々自適の老後がない社会=老後レス社会が到来する」と予言し、大きな衝撃を与えたが、今やそうした時代が到来。高齢者が「死ぬまで働かざるを得ない」状況に陥り始めている。


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総務省の発表によれば、2021年の65歳以上の高齢者就業者数は、前年よりも6万人増え過去最多の約909万人。18年連続の増加で、65~69歳では50.3%と初めて5割を突破。また、70~74歳でも3人に1人が働いており、高齢者の就業率は主要先進国でも1、2を争う勢いだ。

その背景を、シンクタンクの研究員がこう分析する。

「戦後、高度成長の波に乗った日本は2011年まで国内総生産が世界第2位を誇り、当時は60歳定年とともに、旅行に趣味にと悠々自適の老後を送る人たちで溢れ返っていた。だがバブルが崩壊し、リーマンショックを経て長いデフレに突入したことでそれが瓦解。さらに円安、エネルギー高が追い打ちをかける今では、高齢者の夢は完全に打ち砕かれてしまったんです」

事実、『連合』(日本労働組合総連合会)が2019年に調査したところ、高齢者の就業目的は「健康を維持するため」(46.2%)、「生活の質を高めるため」(33.9%)、「働くことに生きがいを感じているため」(28.8%)などを抑え、「生活の糧を得るため」(77.0%)が堂々の1位だった。

定年後の再雇用制度にも変化が

また、前出の研究員はこう続ける。

「2019年に金融庁が試算した『老後資金2000万円不足問題』の余波も大きい。というのも庶民らの蓄えの実態は、同金額に遠く及ばないほど過酷で、『金融広報中央委員会』の22年のデータでは60代で貯蓄ゼロ世帯は約20.8%。前年より約2%も増え、60代世帯の5人に1人が老後の先行きが見通せないことに悩んでいる。しかも、年金は物価高とは真逆の引き下げ傾向で、これも高齢者の就業に拍車をかけているのです」

ただし、気になるのは現在、高齢者らがどんな仕事に就いているのかという点だろう。経済評論家が言う。

「65歳以上の就業は、パートやアルバイトが主流だが、非正規雇用でシニアの従事率が高いのが、コンビニやスーパーなどの小売業、警備員や清掃業、介護やコールセンター業務など。これらは採用者の7割以上がシニア層なのです」

また、最近はどの業界も人手不足に陥っているため、現役時代の特技を活かすことに重点を置き、高齢者を採用する企業も続々と登場している。

例えば、国産ドローンメーカーの『VFR』(東京)は、最長75歳まで働ける定年後の再雇用制度を導入。さらに、特殊シャッター技術で定評のある『株式会社横引シャッター』(東京)は定年がなく、技術力があれば高齢者も雇う構えという。

「ちなみに『横引シャッター』は、2020年に78歳の社員を入社させて話題となったが、30人強の社員のうち、10人が70歳以上というから驚きです。一方、首都圏を中心に200店舗以上を展開する家電量販店の『ノジマ』(神奈川)は、2020年7月に雇用上限年齢を80歳としましたが、その後、それを超えた雇用延長も出ています」(業界関係業者)

シニアがシニアを介護は当たり前に…

要は、労働力不足と有能な人材の確保に頭を悩ませていた企業が、次々と老後資金不足の高齢世代の獲得に乗り出しているのだ。

もっとも、そこにはシニア層ならではの障害も横たわっているという。警備会社のスタッフが語る。

「有効求人倍率が常に7倍前後の警備業界は、慢性的な人手不足。真夏は40度近い炎天下での交通整理、冬は寒さが厳しく、深夜仕事も多いことから若者はまず集まらない。そのため、業界も年齢、性別不問+入社祝い金も用意しシニアを呼び込んでいるが、過酷な現場で体を壊したり、長続きしない方も多いのです」

また、こうした現象は他業種でも同じ。『全国ハイヤー・タクシー連合会』によると、昨年3月時点で「70~74歳」のドライバーは約5万人(20%)。75歳以上も約2万人前後(8%)が就業しているが、現場での事故が頻発しているのだ。

「さほど重労働でないため、定年後の仕事に選ぶ人が多いが、近年は運転ミスや疾患による事故も増加中。2021年に都内で横断歩道を渡る女性が73歳の高齢ドライバーのタクシーにはねられ死亡したが、この事件では運転手がくも膜下出血を起こしていた。運転手の平均年齢が上がっているだけに、大小を問わず事故が増えているのです」(70代運転手)

中小企業診断士によれば、従事者にシニアの多い介護業界やマンション管理業界などでも、こうしたトラブルは絶えないという。

「今や介護士は約4人に1人が60歳以上だといわれている。そのため、80代の女性を80代の介護士が訪問介護している例もあり、オムツの取り換えや介護中に事故が起きることも危惧されている。また、高齢者が多いマンションの管理人も入居者からのクレーム、住民同士のトラブル対応に追われ、ストレスを抱えて辞めていく人も多いのです」(中小企業診断士)

老後資金不足と労働力不足で、世は一億総「老後レス時代」を迎えたが、ゆめゆめ無理は禁物なようだ。

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