岸田文雄 (C)週刊実話Web 
岸田文雄 (C)週刊実話Web 

岸田首相「支持率50%台」に向けた“皮算用”…永田町では“派閥再編”の機運

永田町の暗闘がいよいよ佳境に入りつつある。日増しに政権批判を強める菅義偉前首相が後継カードをちらつかせる中、岸田文雄首相は主流派の結束を固めて、反転攻勢の準備に余念がない。首相が思い描く長期政権への「秘中の秘」戦略も明らかになってきた。


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3人が店を出てきたのは午後10時すぎだった。2月8日夜、岸田文雄首相と自民党の麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長の3人は、東京・四谷の日本料理店『りゅう庵』で会食に臨んだ。


3人の会食は定例的なもので、ほぼ毎月開かれている。だが、今回の席が異例だったのは、いつも同席する松野博一官房長官の姿がない上に、会食が3時間半にも及んだことだ。


首相は2日前の6日夜にも自民党の萩生田光一政調会長と、保守派の論客でジャーナリストの櫻井よしこ氏の3人で、東京・西麻布の『ときわ』で会食していた。こちらも組み合わせの異例さが際立った。


「首相は今後の政権運営を相当意識している」


岸田派のベテラン議員は首相の心中を代弁する。どういうことか。


岸田政権は年が明けても低迷から抜け出せないままだ。こうした中、永田町では「年内に衆院解散できないと首相はじり貧になる」とささやかれている。


2024年秋に自民党総裁選があるが、今年中に解散できなければ総裁選まで解散できるだけの体力を維持するのは難しい。それは総裁選に向けて、党内支持を得られないまま退陣を迫られることを意味する。


小泉政権で要職を務めた長老メンバーによる定期的な会食が、1月18日夜に開かれ、小泉純一郎元首相と山崎拓元副総裁、二階俊博元幹事長らが参加したが、「年内の解散は難しい」との見方で一致した。


岸田首相と距離を置く菅義偉前首相は、1月以降、派閥の会長にとどまる首相の姿勢に疑問を投げかけるなど、批判を強める。


2月3日にはインターネット番組で、後継首相候補として萩生田氏と、2021年の総裁選で自らが支援した河野太郎デジタル相の名前を挙げ、2人の後見人的役割を担っていく姿勢をにじませた。


党長老が政権の行く末を疑問視し、最大の「政敵」である菅氏が首相へのけん制を強める中、この先、政権が失速すれば、年内の政局もあり得るというのが、永田町の大方の受け止めになっていると言っていい。


こうした状況下で、首相は麻生、茂木両氏と長時間にわたって会談し、さらには、菅氏の「手札」でもある萩生田氏に加えて、世を去った安倍晋三元首相に近く、保守層に影響力を持つ櫻井氏とも会食した。


これは「首相が主流派の結束と、保守層との連携を党内に強くアピールした」(前出・岸田派ベテラン議員)ということに他ならない。つまるところ「首相が政局の主導権を握り続けるべく、巻き返しを図った」(同)と、受け止められたというわけだ。


それでは、岸田首相らは何を話し合ったのか。全国紙やテレビの多くは「佳境を迎えた日本銀行の総裁人事や首相秘書官によるLGBTへの差別発言を受けて、対応を話し合ったとみられる」などと報じた。

3カ月前から決まっていた会合

だが、内情に詳しい自民党関係者の話は少し違う。麻生、茂木両氏との会合の内容について「焦点のテーマについてはもちろん話したが、主要な話題はやはり政権運営の在り方だった」と明かす。

「首相はこの席で、2人に『政権の安定と結束を確認したい。重要な課題を先送りせずに、決断していきたい』と話した。この3項目にこそ、首相の思いが凝縮されている」(同)


解説が必要だ。「政権の安定」とは「長期政権」のことであり、要は首相が来年秋の党総裁選で、再選を目指していく意向を改めて示したということだ。


「結束」とは、引き続き岸田、麻生、茂木の3氏を軸に政権運営を図っていくことで、それは菅氏の排除を意味する。「決断」は「衆院解散」の判断を指す。


そして、今回の会合で最も注目すべきなのは「先送りしない」という部分だ。首相は施政方針演説などで、先送りせずに任期中の実現を目指す「重要課題」に言及している。それは憲法改正だ。


改憲は自民党の党是であり、国会が改憲を発議した場合、少なくとも国民投票までは党総裁を降ろすわけにはいかない。総裁選をまたぐように発議すれば無投票再選も視野に入る上に、解散カードも手にしたままにできるので、首相にとっては「最上の策」だ。


つまり会合では、主流3派で長期政権を目指すべく、年内の衆院解散のタイミングを探ると同時に、今秋の臨時国会において、会期末での改憲発議の可能性も模索していくことを確認したというわけだ。


麻生氏は安倍政権時代から、常に早期解散を主張していたので、首相をたきつけている面はある。茂木氏は「ポスト岸田」への意欲を隠さず、総裁選への出馬を狙っているとされるため、今後の出方は不透明だ。


先の自民党関係者は「首相の権限は強い。意気軒昂のままなら辞めさせるのは難しい。茂木氏の本心がどうであろうと、首相は心が折れない限り、シナリオ通りに計画を進めていくだろう」と話す。


ここで重要になってくるのが、首相と萩生田、櫻井両氏との会合だ。党政調関係者によると「憲法改正の在り方や安全保障政策などをめぐり、3時間以上にもわたって突っ込んだ意見交換がなされた」という。


意味合いは保守系との連携強化だけではない。会合が「3カ月前からセットされていた」(前出・政調関係者)ように、首相が年明けの新たな局面で、政権基盤の強化を図ろうとしていたのは間違いない。


首相は2月2日、信頼を置く森山裕党選対委員長を官邸に呼び、衆院小選挙区「10増10減」に伴う選挙区調整の現状とともに、党内状況の説明を受けた。それに先立つ1月26日には同じく官邸で、山梨県知事選で再選を果たした長崎幸太郎氏の労をねぎらってもいる。


衆院議員時代の長崎氏は、二階氏側近の一人と目され、今でも特別会員として二階派に籍を置く。森山氏も二階氏も、菅氏が連携を期待する実力者だ。首相は、そこにくさびを入れようとしているのだ。


首相の基盤固めの動きが功を奏したのか、1月27日夜には二階氏と森山氏が、東京・六本木のステーキ店で会食し、菅氏による派閥批判には与しない考えで一致したという。

支持率50%台回復の皮算用

ここまで党内政局を比較的優位に進めていることに加え、NHKによる2月13日の世論調査で内閣支持率が3ポイント増の36%になるなど、反転攻勢の兆しが見えてきた状況に、岸田首相も気を良くする。

同じ13日、共同通信の加盟社政治部長会議に寄せたビデオメッセージでは「山積する課題に愚直に正面から取り組み、この国の未来のために引き続き全身全霊を尽くしてまいります」と意気込んでみせた。


首相はこの先、経済学者の植田和男氏に決めた次期日銀総裁の国会同意人事を済ませ、2022年のインフレ率を上回る3〜4%の大幅賃上げを実現すれば、春の統一地方選は堅調な結果が得られると踏んでいる。


4月23日の衆院4補欠選挙は、千葉5区が野党分裂となることで、和歌山1区と山口2、同4区を合わせて自民全勝との観測が強い。


この勢いで5月19日から広島で主催する先進7カ国首脳会議(G7サミット)を成功させ、6月の骨太方針で「次元の異なる少子化対策」を打ち出せば、支持率は「50%台を回復する」と皮算用する。


だが、不安要素はいくつもある。LGBTへの差別発言をした秘書官が更迭されたように、官邸内は相変わらず統制が取れていないままだ。首相は事態を収拾しようと、LGBT理解増進法案の国会提出に向けた調整を党側に指示した。法案をめぐっては2年前に超党派の議員立法として、各党間で提出への調整が進められたが、自民党内の保守系議員らによる反対で頓挫した経緯がある。


このため取りまとめ役の萩生田氏の動きは鈍く、他党に比べて自民党の後ろ向きな姿勢が際立つ状況となっている。党内では「萩生田氏自身が法案に懐疑的」(安倍派中堅)とみられており、首相が無理に進めようとすれば、党内に亀裂を生みかねない。


また、首相が「看板政策」に据える少子化対策は、財源で難題を抱える。家庭への手当支給強化が対策の柱として想定されており、関連予算の総額として、現行の倍に当たる10兆円規模が必要になってくる。


だが、首相に近い甘利明前幹事長が消費税率引き上げに言及して批判を浴びたように、増税での財源確保は困難だ。政府関係者によると、官邸では「子育て保険」方式が水面下で検討されているという。医療、介護に続く「第3の保険」になるが、負担増には変わりがないため、国民の理解が得られるか見通せない。


そうでなくても夏以降は、防衛費の大幅増に伴う財源確保に向けた議論が本格化する。政府方針である法人、所得税などの増税には世論の反対が強く、党内論議の紛糾は必至だ。


国債発行を迫る安倍派の意向を受けて、萩生田氏は国債の「60年償還ルール」の緩和を目論むが、財政規律が緩むとして官邸と財務省は否定的だ。金利が急上昇する事態にでもなれば経済は失速し、首相の反転攻勢のシナリオは一気に崩れかねない。

「長老」の派閥にも分裂の芽

こうした展開を虎視眈々と狙っているのが、他ならぬ菅氏である。岸田首相は当然のことながら、年内解散に踏み切ることはできない。国政が混乱している中での改憲発議は、あり得ないだろう。

来年も解散のタイミングを見いだせず、そのまま秋に総裁選を迎えることになれば、首相の劣勢は否めない。ただ、菅氏の立場も決して安定的ではない。実は、党内各派に流動化の兆しがあるのだ。安倍氏の死去に伴い安倍派が動揺しているように、80歳を超える麻生氏と二階氏がそれぞれ会長を務める麻生派と二階派にも、分裂の芽が生じようとしている。


麻生派は「麻生氏が引退すれば、鈴木俊一財務相、河野氏、甘利氏のグループに3分裂し、残りは岸田派に流れる」(麻生派関係者)とみられている。


二階派では、派の継承に意欲を見せる武田良太元総務相と、反武田氏グループの対立が深まっており、二階氏が退けば「安倍派への合流組を含めて、少なくとも3つに割れる」(二階派関係者)という。


茂木派も安泰ではない。茂木氏が総裁選出馬に踏み切れば、同派に影響力を持つ青木幹雄元参院議員会長に近い勢力は離れ、新たな結集軸として、かつて「竹下派七奉行」の一人として鳴らした梶山静六元官房長官の長男で、無派閥の梶山弘志幹事長代行を迎え入れるとの観測も流れる。


事情に詳しい自民党関係者が話す。


「いまの派閥の形は、もってあと3年だ。各派の30〜40代の中堅、若手を中心に、昔に戻ったような実力者同士の暗闘や、派閥の合従連衡への不満がくすぶっている。大きな政局など何かのきっかけがあれば、すぐにでも崩れる」


岸田首相が自らのシナリオ通りに政局を主導していくのか、局面の変化をつかんで菅氏が流れを引き寄せるのか、それとも派閥が流動化し、中堅、若手の勢力が一気に台頭してくるのか、永田町の暗闘から引き続き目が離せない。