夏から秋にかけての漁港では、イワシや小アジ、小サバなど、これら小物の青魚の数釣りが手軽に楽しめます。賑やかだった漁港の水の中も、水温の低下とともに姿を消し、冬から春にかけては魚っ気の少ない寂しい状況に。そんな冬場でも元気なのが、〝イワシではないイワシ〟トウゴロウイワシです。

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一般的には完全なる外道扱いをされる魚ではありますが、寒々とした冬の海でも寄せエサをまけば、どこからともなく姿を現すトウゴロウイワシは、冬のありがたいターゲット。今回は、そんなトウゴロウイワシ釣りを楽しもうと、神奈川県は小田原市にあります早川港へとやってまいりました。

大正時代に建てられた趣のある早川駅に降り立ち、午後の穏やかな港町を歩くこと程なくで漁港に到着です。港内の海を覗いてみると、冬らしく澄み切った海中に魚の姿は見当たりません。「まあ、寄せエサをまけばそのうちに集まるでしょう」と、海水をくんだバケツにアミエビのブロックを浸して、解凍しながら寄せエサをまきつつ魚が集まるのをのんびり待つことにします。

ところが、しばらくまき続けても一向に魚の姿は見えません。海中にまいた白いアミエビを目で追いますが、途中で何かに食われることもなくゆっくりと沈んでいきます。ここのところの寒波で魚たちの活性も、よほど低いのでしょうか。

安物のサビキ竿に簡単な玉ウキ仕掛け、ハリには寄せエサと同じアミエビを付けて軽く仕掛けを投じます。と、同時に寄せエサをパラリ。寄せエサの中に付けエサが漂うようにすると、群がるうちの1尾がエサを食う様子が見えました。軽く合わせると、ブルルッと小気味よい手応えで釣れたのはトウゴロウイワシです。

ところが、寄せエサは盛んについばむものの、なかなかハリに付けたエサを食いません。中には付けエサの直前でＵターンする魚もいたり…。それでも寄せエサをまいては、だましだまし付けエサを食わせて、ポツリポツリとトウゴロウイワシを追加。高水温期のように、たくさんハリの付いたサビキ仕掛けでゾロリと数を釣るのも楽しいですが、この小さなイワシのような魚を1尾ずつ釣り上げるのも、貧乏性のワタクシにとっては楽しいものがあります。今回は刺身で一杯やりたかったので、型のよい物だけをバケツに入れ、小さい物は逃がしながら夢中で釣り続けるうちに辺りは薄暗くなり、いよいよ海中のエサが見にくくなってまいりました。

ここからは仕掛けを入れる度にキュキュンッでカタボシイワシが連釣…となったのも束の間。パタリと釣れなくなるとともにトウゴロウイワシも釣れなくなり、暗さでウキが見えなくなったことから一旦竿を納めることにしました。

さて、冒頭に〝イワシではないイワシ〟と書いたトウゴロウイワシ。2つの背ビレを持つことから、イワシよりも分類上はボラに近い魚とされます。そして、カタボシイワシはもともと生息域が南九州や南西諸島とされていたものが、温暖化の影響か、近年その生息域を北上させているイワシです。

今回は、この2種の異端児イワシを肴に晩酌です。トウゴロウイワシは刺身に、カタボシイワシは酢漬けにしていただきます。まずカタボシイワシ。酢締めのコハダやママカリにも似た旨さで、骨も当たらず意外や美味。そしてトウゴロウイワシ。ウロコと皮を引く手間はかかったものの、一口食べれば高級寿司ダネのサヨリに勝るとも劣らぬ旨さ。サクッとした歯応え、爽やかな風味とうっすらと感じられる上品な脂乗りは、いくらでもいけるほどに旨い刺身です。

釣り場ではまともに相手にされることの少ないトウゴロウ、そして東日本では新顔のカタボシ、共に異端児のイワシながら、肴としては上等な味わいで、大変満足な晩酌となりました。

三橋雅彦（みつはしまさひこ） 子供のころから釣り好きで〝釣り一筋〟の青春時代を過ごす。当然のごとく魚関係の仕事に就き、海釣り専門誌の常連筆者も務めたほどの釣りisマイライフな人。好色。