お笑い芸人の上下関係とは~島田洋七『お笑い“がばい”交遊録』
前回、中川家の礼二と3日連続で寿司屋へ晩飯を食べに行った話をしましたね。その後、中川家はM-1初代チャンピオンになった。ある日、礼二からこんな電話が掛かってきたんです。
「これからモノマネ番組でB&B師匠のモノマネをします。今から本番です」
【関連】中川家・礼二らと3日連続の寿司屋~島田洋七『お笑い“がばい”交遊録』 ほか
「がんばりや」
本番が終わると「師匠、優勝しました!」と律義に連絡があったんです。放送日を教えてもらいオンエアを見ると、B&Bのネタをそのままマネていましたね。俺らのネタは分かりやすいからウケるんですよ。
それから3〜4カ月後、またもモノマネ番組の本番前に礼二から電話があった。「今回は、今いくよ・くるよ師匠のモノマネをします」。するとまたも優勝し、すぐに連絡を寄こした。
「おまえらは島田一門のモノマネばかりやな。次は紳竜(紳助・竜介)のモノマネでもするんか?」
「いくよ・くるよさんとB&Bさんは特徴を捉えやすいんですけど、紳竜さんは難しいんです」
確かに、いくよ・くるよ姉さんはお腹をポンポンと叩いたり、俺らなら「もみじまんじゅう!」とやればいいから、やりやすいんでしょう。対して紳竜はマネするのが大変なのかもしれませんね。
その後、大阪で久しぶりに礼二に会ったんです。島田一門のモノマネで二度も優勝したから「なんかおごれ〜(笑)」と振ると、なんばグランド花月の近くにある吉本芸人御用達の『あずま食堂』に連れて行ってくれた。「師匠、なんでも食べてください」と礼二。「一番高い素うどんください」。「師匠、もっと高いもの頼んでくださいよ」、「今日はあんまり食べたくないし、素うどんが一番好きやねん」。
先輩と飲むときはセーブして…
後輩になんでも食べてくださいと勧められたら、ボケないと仕方ないでしょ。それに素うどんに高いも安いもない。一番安いですからね。すると礼二も「僕も素うどんください」。「おまえがおごってくれるんやから、もっとエエもん頼めばエエやん」。店のおばちゃんからは「洋七さんはお金あるんやから、もっとエエもん頼めばいいのに」とツッコまれましたよ。お笑い芸人は上下関係がしっかりしているから、後輩は先輩より高いものは絶対に頼めないんです。礼二だけ「天ぷらうどん」なんて決して口にできない。寿司屋で「好きなもん注文しろ」と俺が後輩に勧めても、安いネタを注文しようとする。だから、俺がマグロを頼んだら店の大将に「全員、俺と同じもん出してあげて」と言いますよ。
おそらく酒が好きでも、先輩と飲むときは量も普段よりセーブしているんでしょうね。俺ら芸人はそういう世界で何十年も育っているから自然と身についてしまう。芸人でない人と食事に行くとそうはいかない。
今や中川家は海原やすよ・ともこと共に吉本の劇場の看板ですよ。テレビにも出るけど、寄席も大事にして一生懸命やっている。だから俺は彼らが大好きなんですよ。
今年も年賀状が届きましたけど、奥さんとお子さんと幸せそうに写真に収まってましたね。俺は漫才が大好きだから、中川家にはこれからもテレビ1本にならず、漫才でも活躍してほしい。俺の願望です。
島田洋七 1950年広島県生まれ。漫才コンビ『B&B』として80年代の漫才ブームの先駆者となる。著書『佐賀のがばいばあちゃん』は国内販売でシリーズ1000万部超。現在はタレントとしての活動の傍ら、講演・執筆活動にも精力的に取り組んでいる。
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