企業経済深層レポート (C)週刊実話Web
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セレブ狙い“脱庶民”の格差戦略〜企業経済深層レポート

今年1月31日に東京・渋谷にあった『東急百貨店』本店が55年の営業に幕を下ろしたが、ここにきて老舗デパートの撤退に拍車がかかっている。


経済記者がこう語る。


「デパートといえば、かつては休日に家族そろってショッピングや食事に出かける、レジャースポットだった。ところが近年は倒産や撤退が相次ぎ、昨年10月には『小田急百貨店』が新宿店本館を閉館。池袋でも西武百貨店の売却が決定した。ビルの老朽化を理由に閉店した東急本店も、跡地には商業施設やホテルを併設する高層ビルが建つ予定だが、従来のデパートが入る可能性は100%ないと見られているのです」


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『日本百貨店協会』によれば、1999年311店あったデパートの店舗数は2023年現在、185店舗にまで激減している。総売上高も2011年は6兆1530億円あったものが、22年には4兆9812億円と、約1兆円以上減少しているのだ。


しかしなぜ今、デパート業界には嵐が吹き荒れているのか。シンクタンクの関係者が言う。


「1つは『イオン』に代表される、車社会に対応した大駐車場を持つショッピングモールやネットショッピングが台頭したため。また、2つ目は売り上げを支える中間層が高齢化したこと、給料が据え置きの中で物価だけが上がり、こうした人たちの足がデパートから遠のいたことなどが原因と見られています」


もちろん、近年はこれに加えてコロナ禍で営業時間が制限されたことも大きな足かせとなっていた。

『リベンジ消費』でハイブランド購入

だがそうした中で、生き残りを模索するデパート業界は昨今、営業方針を大きく転換させつつあるという。代名詞となっているのは、「脱庶民」「富裕層向け」といったキーワードだ。

デパート業界に詳しいアナリストが指摘する。


「実は近年、デパート業界は富裕層向けの販売にシフトしている。コロナ規制が緩んだ昨年から、富裕層を中心に〝リベンジ消費〟(=自粛の反動として生まれた消費)が急増。ハイブランド商品、高級腕時計やジュエリー、アート作品などがバカ売れで、富裕層に向けた部署や品ぞろえの強化も進んでいるのです」


その先陣を切ったのは、『三越伊勢丹ホールディングス』だ。同社は、昨年6月に優良顧客を束ねる「外商統括部」の設置を宣言。おかげで2023年3月期の連結営業利益は、前期比約4.4倍の260億円になる見込みだという。


「また『松坂屋』の名古屋店では、外商部が一丸となり昨年8月に高級輸入中古車の取り扱いを開始。店頭に2億5000万円のポルシェや2197万円のベンツが並び注目を集めたが、こうした取り組みは他のデパートも追随し、今や生き残りをかけた富裕層戦略が過熱しているのです」(同)


ちなみに、デパート業界がこうした動きを見せる裏には、我が国の富裕層事情が関係しているという。


「『野村総研』によれば、2013年時点で5億円以上の金融資産を持つ層は5.4万世帯。この超セレブ層が19年には8.7万世帯に増えた。また、近年はITをはじめ若くして成功した『ニューリッチ』と呼ばれる年俸1000万円強の層も増加。客単価が高いこれら顧客の購買意欲を満たすことが、生き残りのカギとなっているのです」(業界関係者)

“デパ地下”食料品売り場は生き残る!?

そのためか、業界は富裕層に向けた新たな商業ビルの建設も目指しているという。モデルケースとなっているのは、2017年に東京・銀座にオープンして話題を呼んだ『GINZA SIX(ギンザシックス)』だ。

「『松坂屋』銀座店の跡地に建つ同ビルは地下6階、地上13階建てで、住居は併設していないものの、200を超える高級ブランドやオフィス、能楽堂などが入った複合商業施設。富裕層が群がり売り上げを伸ばしたことから、これをモデルとした商業ビルの建設に拍車がかかっているのです」


実際、昨年10月に閉店した『小田急百貨店』新宿店本館跡地には、富裕層向けオフィスと商業機能を備えた48階建て複合ビルが建つ予定(2029年竣工)。また、『東急百貨店』本店跡地にも、地上36階、地下4階の高層複合ビルが建設予定(27年竣工)で、こちらは商業施設に文化施設、オフィスに加え、ホテル、賃貸レジデンスを併設するという。


前出のシンクタンク関係者がこう語る。


「デパートは呉服屋と電鉄を母体としたものに大別されるが、特に電鉄系はこの動きが顕著。高級商品は外商部が上層階にある優良顧客の自宅やオフィスを訪れて販売し、低層階の商業エリアは高級ブランドに貸し付けて儲ける収益システムを模索しているのです」


また、経済記者が言う。


「今のところ『東急百貨店』本店跡地に建つビルには、『東急百貨店は入らない』といわれているが、デパ地下を再現した食料品売り場が入る可能性が残されている。上層階のオフィスへの手土産や賃貸レジデンスに住む富裕層がコロッケと高級酒でホームパーティーを催したり、ホテルの宿泊客らがスイーツを買い求めるケースが考えられるからです」


今後はデパートにも大きな〝格差〟の波が押し寄せそうな雲行きだ。