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独裁者の闇…北朝鮮・金正恩の“ふくよかな娘”再登場の裏で“餓死する国民”貧富の格差

Es sarawuth
(画像)Es sarawuth/Shutterstock

北朝鮮は2月8日夜、朝鮮人民軍創建75年の節目に合わせ、平壌の金日成広場で軍事パレードを実施した。国営メディア『朝鮮中央通信』は、パレードに大陸間弾道ミサイル(ICBM)や戦術核運用部隊が登場したと報じた。

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「金正恩総書記は2月6日、党中央軍事委員会拡大会議で『戦争準備態勢完備』と『戦闘訓練拡大』を指示しましたが、それを裏付ける強大な戦力を世界に向けて見せつけたわけです」(外交官関係者)

この軍事パレードによって、核なき世界に逆行する北朝鮮の脅威が明らかになった。一つは過去最多となる10基以上のICBM『火星17号』が登場したこと。これを搭載する自走発射機(TEL)を製作するのは、技術的にかなり難しいが、北朝鮮が超大型TELの量産能力を獲得したことは、対米核攻撃力が一段と強化されたことを意味する。

もう一つは、これまで知られていなかった新型ミサイルの存在だ。おそらく固体燃料型ICBMと思われ、2017年4月に公開されたときは、まだ完成していない「ハリボテ」だった。

「北朝鮮にとって固体燃料型ICBMの開発は悲願でした。『火星17号』など液体燃料型を使用する場合、燃料の注入作業に数十分を要します。しかし、固体燃料型は初めから燃料がセットされているため、すぐに発射できる。つまり、先制攻撃や報復攻撃に有効なのです」(軍事ライター)

「尊敬するお子様」との報道

ちなみに、先般「反撃能力」の保持を打ち出した日本について、北朝鮮はどう思っているのか。

「まったく脅威と見なしていません。米韓への口汚いののしり方に比べ、日本に対しては、正恩氏の実妹で宣伝扇動部トップの金与正党副部長も完全無視です。今の日本に北朝鮮を攻撃する能力や意思はなく、今後も直接攻撃しないと認識しているからでしょう」(国際ジャーナリスト)

2月8日の軍事パレードでは、黒いコートを着て中折れ帽をかぶり、笑顔で部隊を視察する正恩氏の姿もあった。同氏が公の場に現れたのは、昨年12月31日の口径600ミリ放射砲「贈呈式」の演説以来、37日ぶりだ。

パレード前日の7日に開かれた軍幹部との宴会では、正恩氏の娘、キム・ジュエさんとみられる少女が両親に挟まれて中央に座っていた。この席は通常なら正恩氏の指定席で、李雪主夫人の胸元には『火星17号』をあしらったペンダントが輝いていた。

「ジュエさんは正恩氏の隣でパレードを見守りましたが、その際、正恩氏にほおずりをしています。北朝鮮で神のような存在である正恩氏の顔に、誰かが触れる様子が公開されたことなど前例がありません」(同)

また、報道におけるジュエさんの呼ばれ方が、今回から「尊敬するお子様」に変化した。国内で「尊敬する」という最高の敬称が付くのは、11年ほど前の李夫人と、それ以前は正恩氏が後継者として登場したときだけだ。

「まだ10代のジュエさんの姿を公開することに、どんな意図があるのか分かりませんが、金一族に党や軍が忠誠を尽くしていることをアピールする狙いがあるのは間違いありません。いずれにせよ彼女が存在感を増したことにより、米国メディアには後継者に位置付けられているとの臆測が広がっています」(同)

バケツ持参で用を足す国民

しかし、後継者説に疑問を唱える識者もいる。

「正恩氏には1男2女がいるとされる。ジュエさんにも長女説と次女説がありますが、金一族の慣例からすると、公式の場に出てきたら後継者ではないと考えるのが普通です。顔が割れれば海外留学など自由な活動ができませんからね。男子がいるなら後継者として温存しているはずです」(北朝鮮ウオッチャー)

実際のところ正恩氏は娘を公開することで、食糧難に苦しむ国民の不満をかわそうとしているのかもしれない。娘を持つ優しい父親というイメージの演出は、正恩氏の真っ黒な本性を隠すのに十分だからだ。

北朝鮮には金一族による富の独占と、餓死者まで出る国民という著しい貧富の格差がある。さらに、世界最先端と豪語するミサイル開発を推進する一方、全国で年初恒例の「堆肥戦闘」を行っており現代技術と19世紀レベルの農業という大きな落差が存在している。

「北朝鮮では厳寒の中、小学生から労働党幹部まで、全国民が人糞を集めた堆肥作りに駆り出されています。4月の種まきと田植えに備えるためですが、背景には貧しい農場システムや化学肥料の不足、肥料の輸入経費の節約があります」(同)

今年のノルマは労働者が1人1トン、扶養家族(主に家庭の主婦)は500キロ、生徒と老人は300キロで、共同トイレに向かう際はバケツを持参するという。

あのふくよかで笑顔を絶やさない少女は、北朝鮮の巨大な格差を物語っている。

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