昨年12月に、すでに発表済みだった巨人の今季スタッフだが、年明け早々、巨人の本流から外れていた元エース、桑田真澄氏が「投手チーフコーチ補佐」という新設ポストに就任すると発表された。これについて、舞台裏で様々な憶測が飛び交っている。
ベテランの巨人担当記者が話す。
「混沌としていた巨人の次期監督は桑田氏で、当面、一本化されたと見るべきでしょう。〝ポスト原監督〟の最有力候補と見られていた阿部慎之助二軍監督はもとより、待望論が今なお強い松井秀喜、前監督の高橋由伸氏の再登板も、これですべて消滅しました。契約最終年を迎え、続投を目指す原辰徳監督が放った逆転満塁ホームランです」
三度目の巨人監督就任に際し、「次の監督を育てるのが私に託された大きな仕事」と話していた原監督は、昨年12月28日に山口寿一オーナーと会談。「ジャイアンツOBで非常に気になる後輩がいる」と桑田氏招聘を相談し、了承を得られたことから1月5日に本人と会い、入団が決まった。
本誌が入手した情報をまとめると、原監督が桑田氏を「投手チーフコーチ補佐」という奇妙な肩書で入閣させたのには、以下の3つの狙いがあるという。
原監督と“同じ手順”を踏む桑田コーチ
1つ目は、エース菅野智之をメジャー仕様に微修正し、日本シリーズで2年連続4連敗したソフトバンクを打ち負かして、それを手土産に今季のシーズンオフに米球界へ送り出すこと。
2つ目は「チーフコーチ補佐」という足枷をはめ、肩書通り「補佐」に徹することができるかの人間性を見極めるため。
そして3つ目が、次期監督を前提に帝王学を伝授し、次に据えるというもの。
「1と2をクリアすれば、原監督は次期監督に桑田氏を指名し、指揮権を禅譲することになる。読売首脳は高橋由伸をいきなり監督に就けて失敗した反省から、旧来の伝統にのっとり、コーチ、ヘッドという手順を踏んで監督に起用する方針を現場と確認したようだ」(スポーツ紙デスク)
勝利数で川上哲治氏を抜き巨人の歴代トップになった原監督も、その方針にのっとった1人。2001年に長嶋茂雄監督の下で今回の桑田氏同様、前例のない「一軍総合コーチ」に就き、ヘッドコーチを経て今に至る。
これは、渡邉恒雄オーナー(当時)の強い意向によるものだったというが、スター選手だった原監督といえども、この手順を踏むしかなかった。
“昭和野球”の阿部慎之助二軍監督と衝突!?
「対照的なのが松井氏で、メジャーでアジア人初のワールドシリーズMVPに輝いたというプライドが一介のコーチ就任をためらわせ、実はこれが監督就任の障害になっている。一方の桑田氏は、今回、原監督から2年間の滅私奉公の要請を受け入れたことで、将来の監督候補に踊り出た」(同)
実は、原監督には、巷間伝わるような「今季で勇退」する気などさらさらないという。あるのは、桑田氏を2年計画で監督に育てるという大義名分だ。
これなら自身の任期も2年伸び、政権を支える元木大介ヘッドコーチや宮本和知投手チーフコーチも続投できる。阿部政権になれば、失職は避けられない。
「たくさん走って、たくさん投げる時代ではない。(スポーツ科学・医学の発展を活かし)早くうまくなってほしい」
就任早々、罰走を課すなど〝昭和の野球〟をモットーとする阿部二軍監督に挑発的な発言をしている桑田氏。両者の衝突は、避けられそうにない。
「それも原監督は折り込み済み。パイレーツでメジャーの野球を学び、引退後はスポーツ科学を学んだ理論派の桑田氏が、おとなしく〝宴会部長〟の異名を持つ宮本コーチの補佐に収まるとは思えない。一軍で摩擦を起こし、巡回指導の二軍でも衝突となれば、喧嘩両成敗で桑田氏も阿部二軍監督も次期監督争いから離脱する。実は原監督は次のカードも用意している。兄貴分の、あの人の擁立です」(巨人OBの野球解説者)
桑田コーチが背負う背番号「73」の意味
桑田氏の入閣は、実は目的達成のための誘い水で、これを橋頭堡に「ある人物」の招聘を目指しているという。これまでエースとして一時代を築きながら、桑田氏とともに一度も巨人のユニホームを着ていなかった人物――江川卓氏だ。
「桑田氏には不動産投資の失敗による借金が約20億円、江川卓氏もバブル期の事業失敗で約50億円ほどの借金があり、負のイメージが現場復帰の障害になっていたそうです。読売グループがその一部を肩代わりしたという情報もあります」(取材記者)
その意味で、桑田氏の復帰を山口オーナーと掛け合って認めてもらった原監督の手腕と功績は評価できる。長嶋氏をはじめ、歴代の監督がなし得なかったことを実現したからだ。
もちろん、桑田氏が黒子となり、宮本コーチの「補佐」に徹してコーチ業を遂行すれば、次期監督に最も近いのは事実。桑田氏が背負う「73」の背番号は原監督と桑田氏にとって恩師である藤田元司元監督がつけていた番号で、長期政権の可能性だって十分にある。
ただし、プロでの指導経験のなさを疑問視する声に対し、理論で勝る専門的な知識を前面に出し、チームを混乱させる不安も残す。その場合でも、次は阿部二軍監督ではなく、江川氏の擁立、または宮本、元木両コーチの昇格というのが原全権監督の腹の内か。
桑田氏への「2年後に監督禅譲」という密約には、どんな展開になっても、来季以降も続投を狙う原監督の野心が色濃くにじむ。
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