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国民に負担をかけない財源確保策~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

自民党は1月19日、防衛費倍増による増税回避策を議論するため、萩生田光一政調会長を委員長とする特命委員会の初会合を開いた。政府が打ち出した財源確保策は、議論が拙速だという党内の強い不満を受けて設置されたものだ。


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もともと萩生田氏が所属する安倍派は、防衛費増額の財源を国債発行に依存すべきと主張しており、実際に委員会のなかでも、歳出の見直しや国有資産の売却、さらには国債の償還期間を60年から80年に延長する議論が出た。一方で、堂々と増税に踏み切るべきという意見も出て、議論は一本化されていない。

ただ、私は年間1兆円程度の増収策は、増税なしでも簡単に達成できると考えている。一つは、資産売却だ。日本政府は2021年3月末で現預金や有価証券などの流動資産を841兆円、土地や建物などの固定資産を280兆円と、合計1121兆円もの資産を持っている。これは海外の国が持っている資産と比べると圧倒的に大きな額で、1兆円ずつ取り崩しても1000年以上持つ勘定だ。

政府がなぜそんなに多くの資産を保有しているのかというと、その資産に利権と天下り先があるからだ。分かりやすい例で言うと、日本の高速道路は、すでに民営化されているが、その株式の多くは政府が保有している。

NTTやJRのように、株式を民間に売り出せば、数兆円のカネはすぐに入ってくる。なぜそれができないのかと言えば、NEXCO東日本もNEXCO西日本も、社長は国土交通省の官僚出身ということだけ示せば十分だろう。

増税によって経済も低迷に…

もう一つの財源は、通貨発行益だ。政府紙幣を発行すれば発行額はそのまま政府の収入になるが、日本銀行券の発行はそのままでは政府収入にならない。日銀が通貨を発行するときには、同額の資産を購入するからだ。ただし、例外がある。それは日銀が通貨発行の際に、国債を購入したときだ。ずっと借り換えを続けて日銀が永久に保有してくれれば、政府は元本返済の必要がない。

また、日銀に支払った利息は、ごくわずかの日銀の経費を差し引いて、全額が戻ってくる。つまり、日銀が国債を買った瞬間に、その分の借金は消えるのだ。別の言い方をすると、政府と日銀を一体とした「統合政府」という考え方をとれば、政府の負債と日銀が持つ国債という資産は相殺されるから、やはり借金は消えることになる。

それでは、どれだけ通貨発行益を活用できるのか。通貨発行益の活用は、やり過ぎると高率のインフレを招くことになる。ところが、2012年度は68兆円、13年度は69兆円、14年度は75兆円の通貨発行益を獲得したにもかかわらず、インフレは起きなかった。だから1兆円程度の通貨発行益を活用しても、何の問題も起きないのは明らかなのだ。

なぜこうした国民に負担をかけない財源確保策が、ほとんど議論されないのかと言えば、財務省が官邸からの防衛費増額という圧力に乗じて、何が何でも増税への道筋を確保したいからだと思う。

財務省は日本経済の安定的な成長を目指すと言いながら、考えていることは利権に関わらない歳出カットと国民負担増だけだ。経済が厳しいときには、国民負担を減らしていくのが経済政策の基本とされる。その大原則を無視して負担増を続けているから、経済が長期低迷に陥っているのだ。

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