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最初から「負け戦」の緊急事態宣言~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

1月8日に東京、千葉、埼玉、神奈川の4都県に対する緊急事態宣言が発出された。13日には大阪、兵庫、京都、愛知、岐阜、福岡、栃木の7府県が追加され、宣言対象地域は計11都府県に拡大した。

経済に深刻な影響が出るのは間違いないが、最大の問題はこの緊急事態宣言によって、1カ月以内に感染抑制に向かう見通しが立っていないことだ。宣言のなかで実効性のある対策は、飲食店に午後8時以降の営業自粛を求め、協力店に1日6万円を支払うことだけである。

実際、「8割おじさん」と呼ばれる京都大学の西浦博教授のモデル推計では、飲食店に限った対策の場合、新規陽性者数は横ばいのままだという。新型コロナ対策分科会の尾身茂会長も、1月5日の会見では、宣言解除の時期に関して「2月末から3月」と口走ってしまった。

菅義偉総理は、飲食店が急所であり、そこに絞った対策を採れば収束は可能だとしているが、本当にそうだろうか。

例えば、2447人の新規陽性者を出した1月7日の東京都のデータで見ると、感染経路が分かっている802人のうち、家庭内感染が409人、会食が85人、施設内が67人、職場内が62人、夜の街が6人となっている。陽性者全体に占める会食の割合は、3.5%にすぎないのだ。ランチタイムとディナータイムで、感染リスクに大きな違いがあるとは思えない。

感染経路別で最も割合が高いのは、67.2%を占める「感染経路不明」だ。一体どこで感染しているのか。私が一番疑いを持っているのは、通勤電車だ。

確かに通勤電車でクラスターが発生したという事実はない。しかし、仮に通勤電車で感染した場合、追跡調査でそれを明らかにするのは、接触経歴が判別できないので非常に困難である。2週間前の通勤の際、どの列車のどの車両に乗っていたか、答えられる人はいないだろう。

負け戦が分かっているのに宣戦布告をするのと同じ

その意味で、緊急事態宣言のなかで政府が打ち出した「出勤者7割減」という目標は適切だ。それが達成できれば、会食を自粛するよりもずっと大きな効果があるだろう。

ただ、問題は政府が、それをリモートワークの拡大で達成しようとしていることだ。中長期ならともかく、リモートワークはすぐには進まない。

今回は緊急事態宣言なのだから、出勤者が早急に7割減る対策が必要なのだ。実際、緊急事態宣言初日の1月8日、都心へ向かう通勤電車の混雑率は、ほとんど変わらなかった。

私はずっと東京23区のロックダウンを主張してきたが、それが無理なら、せめて東京23区内を運行するすべての列車を停止したらどうだろう。

台風のときにはやっているし、今回、大みそかの終夜運転中止や終電時刻の繰り上げ要請に、鉄道各社が応じているのだから、十分可能なはずだ。

飲食店を「悪者」に仕立て上げ、感染収束の見通しが立たないまま、緊急事態宣言の痛みを押し付ける政策は、負け戦が分かっているのに宣戦布告をするのと同じ愚策だ。

国民は、後手後手に回る政府のコロナ対策にうんざりしている。野党にとっては政権交代のチャンスなのだから、実効性のある対案を今すぐ打ち出すべきだ。

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