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北朝鮮・金正恩の“核連呼”の裏には重度のバイデン恐怖症が!?

Alexander Khitrov, Stratos Brilakis / Shutterstock.com

現在の北朝鮮はかつてないほど疲弊している。新型コロナを恐れるあまりの国境封鎖で輸出入は停滞し、度重なる災害による食糧不足、国連安全保障理事会による経済制裁と、金正恩氏がもたらせた〝人災〟の三重苦が続いている。

そんな中、正恩氏は1月5日から12日まで、過去二番目に長い党大会(第8回)を開催し、5カ年経済計画の未達成を認める一方、核兵器能力の増強や新兵器リストを披歴した。さらに、かつて祖父や父の肩書であった「総書記」を復活させて、あらためて自らの権威付けを図っている。

「肩書がどうなろうと、正恩氏が唯一無二の絶対的存在であることに変わりはなく、この新人事に深い意味はありません。それ以外の人事としては、正恩氏の妹、金与正氏が党第1副部長から党副部長に降格したことが挙げられます」(北朝鮮ウオッチャー)

与正氏と同じく、対南・対米政策を担当していた崔善姫外務省次官も、党中央委員会委員から候補委員へと降格された。

これらの人事は男尊女卑の儒教的伝統を復活させると同時に、米朝対話の失敗で経済制裁が解かれず、軍や国民に不満が渦巻いている現状のガス抜きを行ったものとみられている。

「たとえ兄妹であっても、一国の最高指導者として私情に流されるわけにはいかない。正恩氏による〝これが俺のけじめだ〟というアピールです」(同)

“血統”が何よりモノを言う北朝鮮

与正氏は2019年、ベトナム・ハノイでの米朝首脳会談が決裂した後、今回と同じように要職を解任され、動静がしばらく途絶えていた。しかし、しばらくすると復活しており、今回の降格人事も見せかけにすぎない。

「北朝鮮の権力構造は血統と肩書の二重構造です。例えば、正恩氏の実兄・金正哲氏は党の役職に就いていませんが、英国を秘密裏に訪問した際には、駐英北朝鮮大使館の全職員が神のように崇めて対応している。つまり、肩書より血統が上なのです」(国際ジャーナリスト)

実際、与正氏は党大会の最終日の談話で、北朝鮮の軍事パレードに言及した韓国の合同参謀本部に対し、「敵対的警戒心を抱いている」と強く批判して、自らの存在感を誇示している。

今回の党大会における最大のポイントは、会場に集まった党関係者5000人と傍聴者2000人を前に、正恩氏が3日間で計9時間にも及ぶ活動総括報告をぶったことだ。

その演説で正恩氏は「核」という単語を36回、さらに「核武力」という表現を11回、計47回も繰り返した。と同時に「米国は最大の敵だ」と演説、そして「外交を排除はしない」とも付け加えた。これらの言葉はすべて虚勢で、バイデン政権をいかに恐れているかの証しでもある。

バイデン大統領との直接交渉は不可能!?

「正恩氏は〝非核化〟に言及しませんでした。その上での『外交を排除はしない』ですから、バイデン政権が北朝鮮の主張を一定程度受け入れて対話が再開されたとしても、北朝鮮側は『自国は核保有国』と主張し、米朝交渉を『核軍縮協議』と見なす作戦に出ると予想されます」(同)

米国に対する正恩氏の要求は、米韓合同軍事演習の終了、経済制裁の撤廃、人権問題で批判するのを控えるという3点に集約されるが、これらをバイデン政権が無条件に容認することはない。

「バイデン大統領はトップダウンではなく、ボトムアップで政治を行うタイプです。ですから、バイデン氏との直接交渉で制裁解除に持っていくことは不可能で、バイデン氏側も閣僚レベルの交渉を通じ、北朝鮮が非核化を容認するまでトップ会談に応じないでしょう」(軍事アナリスト)

こうした理由から北朝鮮は、核ミサイル開発を続けていく姿勢を明らかにすると同時に、米国の威嚇には負けないという〝空元気〟を貫くしか道がないのだ。

さらに正恩氏は党大会で、今後5年間の目標の一つとして、「核長距離打撃能力を高める上で重要な意味を持つ原子力潜水艦と水中発射核戦略武器を保有する」とも明言している。バイデン政権をにらみ、新たな脅威を振りかざすことで揺さぶりをかけた格好だ。

中国からのメッセージに安堵する金正恩

当面、北朝鮮の命脈を握る経済危機の克服には、中国の支援が一層不可欠である。中国の習近平国家主席は、今回の党大会に際して、正恩氏に送った祝電で次のように述べた。

《中朝2国は、山と河がつながっている親善的な社会主義の隣邦だ。中朝関係を立派に守り、固め、発展させていくことは、中国の党と政府の確固不動なる方針である》

地理的にも政治的理念も近い北朝鮮に対して、中国は今後も経済支援を続けるという。正恩氏にとってはありがたいメッセージだ。

「正恩氏も習氏への返礼の電報で、《私たちにとって大きな力と励みになる》と述べている。バイデン政権による対北政策を見極めるには、まだ時間がかかる。それまでは中国に頼り、我慢の二文字を貫くしかありません」(中国情勢に詳しい大学教授)

正恩氏は党大会最終日の「結論」で、「敵対勢力は狂ったように私たちの前途をさえぎろうとするだろうが、世界は党の政治的宣言と闘争綱領が、どのように実現されていくかを見守ることになる」と語った。

しかし、現実は真逆である。国民による幸福追求の前途をさえぎっているのは、〝独裁者〟たる正恩氏、その人だ。

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