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財政負担を抑えるために捨てられる高齢者~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

新型コロナウイルスによる死亡者数が1月14日に503人と過去最多を記録した。緊急事態宣言が発出された第5波の死亡者数は3908人だったが、以降、第6波は1万2772人、第7波は1万4405人、第8波は1万6227人(1月16日まで)と死亡者数が大きく増えている。直近1カ月の死亡者数は1万140人と、ついに1万人を超えた。阪神・淡路大震災の死者数が6434人であることを考えると、毎月、国家レベルの災害が発生しているようなものだ。


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ところが岸田政権になってからは、緊急事態宣言など政府レベルの行動規制が一度もかけられていない。「人流が感染を拡大させる」という専門家の見立てが正しかったことは、行動規制を緩和した中国で感染が大爆発したことや、日本でも昨年10月11日に全国旅行支援を拡大した途端、第8波に入ったことからも明らかだろう。

それでも政府は1月10日から全国旅行支援を再開し、新型コロナを感染症法上の2類相当から5類相当に引き下げる構えだ。

なぜ政府は感染抑制をしないのか。死亡率を見ると第5波が0.42%なのに対して、第6波は0.17%、第7波は0.12%、第8波は0.18%と、オミクロン株が主流になってから大きく下がっているのは事実だ。ところが、デルタ株が主流だった第5波のときは、死亡者が幅広い年齢層に分布していたのに、オミクロン株になってからは死亡者が高齢者に集中しているのだ。実際、第8波では死亡者の9割超を70歳以上の高齢者が占めている。

国民に説明が必要ではないか

私は、政府がコロナ感染の抑制に消極的な理由について、財政上の理由だと考えている。コロナ対策をやめれば、3つの財政負担減がもたらされるからだ。第1は、直接コストだ。企業への協力金や労働者の休業補償、国民への給付金などに加えて、年間2兆円を超えるワクチン接種費用も不要になる。第2は、経済活動が活発になるから、税収が増える。そして第3は、高齢者が亡くなれば、社会福祉や医療費が減少する。

例えば、70歳以上の高齢者1人当たりの国民医療費は、平均の2.8倍だ。また、働いている高齢者は少ないから、税収も入ってこない。さらに、高齢者が亡くなれば年金も支払わなくて済むようになる。財政のために高齢者を切り捨てる。それが「ウィズ・コロナ」の実質的な意味だ。支持するかどうかは別にして、一つの政策であり、考え方と言えるだろう。ただ、私が納得できないのは、政府が「高齢者の命よりも財政を優先する」と、国民の前できちんと説明していないことだ。

それどころか加藤勝信厚生労働大臣は、高齢者の死亡増加に関して「高齢者の感染対策を重点的に強化する」と、基本政策と逆の発言をしている。おそらく、高齢者施設での検査強化によるクラスター発生防止のことを言っているのだろうが、それは部分的な対策にすぎない。

私は、少なくとも国会で、高齢者の命と財政のどちらを優先するのか、きちんと議論すべきだと考えている。誰でも高齢期を迎えるのだから、そのことは国民全体に関わる基本的政策となる。ただ、いまのところ野党からも、そうした基本的な施策について政府を追及する姿勢は見られない。もしかしたら野党も、高齢者の命より財政を優先すべきだと考えているのだろうか。

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