昨年11月に引退を表明して、現役生活に別れを告げたサッカー元日本代表の中村俊輔。ヨーロッパでプレーした際には各国の強豪が集う大舞台でも、得意の左足からのフリーキックでゴールを決めるなど、多くのファンを魅了した。
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昨年11月10日、サッカー元日本代表の中村俊輔が引退を表明した。このとき44歳。俊輔は「やり尽くせたという気持ちで、すがすがしく終われた」と26年に及ぶキャリアを振り返った。
Jリーグでは史上初となる二度の最優秀選手賞に輝くなど、俊輔のキャリアは栄光に満ちているが、特筆すべきは海外リーグでの活躍だろう。日本人で初めてUEFAチャンピオンズリーグ(CL)で得点を挙げた選手でもある。
世界のトップクラスが集う強豪クラブが、欧州最強の座を懸けて争うCLは、ワールドカップ(W杯)以上の試合レベルともいわれる。2006年9月13日、俊輔の所属するスコットランドの古豪セルティックは、グループリーグ初戦でイングランドのマンチェスター・ユナイテッドと対戦した。1-2のビハインドで迎えた43分、セルティックがゴール正面やや右の好位置でフリーキックを獲得すると、そこでキッカーに指名されたのが俊輔だった。
練習の積み重ねで魅せるフリーキック
俊輔の左足から放たれたシュートは相手の選手がつくった壁を越えて、ゴール右隅へ一直線。キーパーが一歩も動けないままネットに吸い込まれていった。
CLの公式SNSが2022年になってもなお「16年前の今日、中村俊輔の伝説的フリーキック!」と紹介するほどの歴史的かつ芸術的なシュートであった。
俊輔の代名詞とも言える左足から繰り出されるフリーキック。スライス、フック、逆回転に無回転と、あらゆる球筋を正確に、そして自由自在に蹴り分けて、海外メディアが選出する名キッカーのランキングにも度々選出されてきた。日本サッカー界が生んだ最高のテクニシャンといっても決して過言ではない。
プロ入りするまでのフリーキックについて、俊輔は「得意としているプレーの一つという感覚くらいで、あまり深く考えていなかった」と話している。だが、それは謙遜含みで、常人にはとても真似のできない練習の積み重ねがあった。
少年時代は壁に描かれた円形の的に向けて、雨の日も風の日も夢中でボールを蹴り続けていたという。これが神業的なフリーキックの下地となった。
1997年に桐光学園高から横浜マリノス(現・横浜F・マリノス)に加入した俊輔は、高卒ルーキーながらキッカーに抜てきされたことで、さらに技術を磨いていった。プロ初ゴールも、そうして鍛えた直接フリーキックによって記録している。
日韓共催W杯で“まさかの落選”
歴代屈指の技術力を備えた俊輔は、日本代表としても98試合に出場し、歴代10位の24得点を記録したが、唯一W杯では大きな結果を残すことができなかった。
1998年のフランスW杯は、代表候補になりながら最終的には選に漏れ、2002年の日韓共催W杯でも、直前のアジアカップではチームの中心として活躍したものの、最終選考でメンバーから外された。
俊輔の落選は物議を醸し、その理由として私生活に関するあらぬ噂が立てられたりもしたが、実際には世界と戦うためにスピードと守備力を重視したフィリップ・トルシエ監督の戦術に、俊輔が合わないことが落選の理由だったとされる。
当然、代表に選ばれると思っていたであろう俊輔は相当な悔しさを味わったに違いないが、それでも「いつか、W杯に出られなかったことがよかったと思えるくらいうまくなる」と、気丈に話したものだった。
そして2006年のドイツW杯では、ついにジーコ・ジャパンの「10番」を背負うことになる。俊輔にとって10番は特別な数字だった。少年時代にテレビで見たメキシコW杯(1986年)で、伝説の5人抜きをやってのけたアルゼンチン代表のディエゴ・マラドーナが、背番号10をつけていたからだ。
「10番をつけている限り、恥ずかしいプレーはできない」との意気込みで臨んだ大会だったが、結果はグループリーグ2敗1分で敗退。2戦目のクロアチア戦で絶好のチャンスを逃した柳沢敦の「急にボールが来たので」という迷言が象徴するように、決定力不足は深刻だった。
また、のちにジーコが「腐ったミカンは周りに悪影響を及ぼす」と話したように、チーム内の雰囲気も悪かったようだ。
ことW杯には縁の薄かった俊輔だが、今後は指導者としての道を歩むようだ。さらなる活躍をしてくれることに期待したい。
《文・脇本深八》
中村俊輔
PROFILE●1978年6月24日生まれ、神奈川県出身。1997年に横浜マリノス(現・横浜F・マリノス)に加入。2000年と13年にJリーグ最優秀選手賞を受賞。2002〜10年は海外リーグでも活躍した。国際Aマッチ出場98試合24得点。
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