岸田政権“異次元”の強気戦略!? 安倍派分裂で『いずれは』消費増税ニオわせ
安倍晋三元首相が凶弾に倒れてから半年が経過した。自民党の最大派閥、清和政策研究会(清和研、安倍派)の後継会長選びは難航を極め、結局、当面は集団指導体制で運営していくことになった。もはや薄氷の結束でしかなく、幹部による主導権争いの末に分裂するとの見方は強い。
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それを見越してか、岸田文雄首相は強気の政権運営にシフトした。かねてより「財務省政権」と揶揄される通り、消費税増税に照準を合わせているようだ。そもそも首相率いる宏池会(岸田派)は第5派閥で、党内で主導権を握って政権運営できるほどの力はない。そのため政策を決めるに当たっては、安倍氏の意向を受けて落としどころを見定めてきた。安倍派内から不満の声が上がっても、領袖の安倍氏がなだめることで事は丸く収まっていた。
ただ「丸く収まった」と言えば聞こえはよいが、要するに安倍氏の顔色をうかがいながら政策を決めていたわけだ。そんな安倍氏が忽然と消えたとあって、派内では「われこそは正統な後継者」とばかり、萩生田光一政調会長、世耕弘成参議院幹事長、西村康稔経済産業相ら中核メンバーの間で主導権争いが勃発した。
萩生田氏は昨年12月10日に台湾を訪問し、総統府で蔡英文総統と会談した。台北市内で行った講演では、中国が昨年8月、弾道ミサイル5発を日本の排他的経済水域(EEZ)内に撃ち込んだことに触れ、「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事であるという安倍氏の言葉の正しさを、中国自身が行動によって証明した」と発言。安倍氏の主張を高らかに代弁した。
“安倍派”は相手にしていられない…
萩生田氏に負けじと世耕氏も、同月26日に訪台して蔡氏と会談。安倍氏への弔意を蔡氏が伝えると、世耕氏は「偉大な政治家の思いをしっかり引き継ぎ、今後も日本と台湾の関係の深化のために努力したい」と、遺志を継ぐことを宣言した。一方、防衛費増額に向けた財源確保策をめぐっては、首相が法人税などの増税を打ち出し、国債発行を否定したにもかかわらず、萩生田氏は安倍氏の主張をなぞるように「国債発行も排除しない」と真っ向から対立してみせた。自民党の政調会長といえば、かつては政策決定のキーマンとして一目置かれていたが、安倍氏の遺志を継ぐことに汲々としている萩生田氏に、財務省からはため息が漏れる。
また、西村氏は閣内不一致もなんのその、記者会見で「このタイミングでの増税は慎重にあるべきだ」と持論を展開した。萩生田、世耕両氏に比べると、西村氏は安倍氏からの寵愛度が低かったが、派閥の前事務総長であり、自民党総裁選挙に出馬した経験もある。ただ、清和研の次期エースと長くいわれてきた割には、人望がない。
ともあれ、一事が万事こんな調子では、首相もさすがに「安倍派を相手にしていられない」というのが本音だろう。国債発行は頑として認めず、増税案を引っ込めることはなかった。昨今は「安倍氏の傀儡とはもう言わせない」とばかり、言動に強い思いがにじむ。
ゆくゆくは消費税増で対応か
こうした中で飛び出したのが首相の後ろ盾、自民党の甘利明前幹事長の「消費税増税」発言だった。首相は1月4日に三重県伊勢市で行った年頭の記者会見で、「異次元の少子化対策に挑戦する」と語った。異次元といえば金融緩和が想起される。失敗したともいわれる政策の冠を使い回すあたりは、首相のセンスのなさを象徴しているが、少子化対策の財源について甘利氏は、5日放送のBSテレ東番組でこう言い放った。「子育ては全国民が関わることで、幅広く支えていく体制を取らないといけない。将来の消費税(増税)も含め、地に足をつけた議論をしないといけない」
首相に近いというだけでなく党税制調査会の幹部でもあるため、政権の意向を代弁したと言って間違いないだろう。だが、4月に統一地方選挙を控え、しかも防衛増税をめぐり自民党内に波風が立っているときに言うセリフではあるまい。
首相の側近でもある木原誠二官房副長官は、1月6日に放送されたBS11の番組で消費税について聞かれ、「当面、触れることはない。すぐ将来に何かをするということは考えていない」と火消しに追われた。だが、この言い方も微妙だ。すぐに消費税率を上げようとは考えていないが、「いずれは」という思いが感じられる。
「岸田首相につられて周囲まで強気になり、ついつい本音を漏らしてしまったのでしょう。いとも簡単に馬脚を現してしまうあたり、政権の脇の甘さを感じずにはいられません」(大手紙政治部記者)
宏池会は伝統的に財政規律を重視しており、財政出動、規制緩和を成長戦略の基本とするアベノミクスとは、対極的な考え方に立っている。国債発行を拒否し、防衛増税をかたくなに推進しようとするのも、財政規律を重視しているあらわれと言える。少子化対策でも国債発行を求める声が野党にあるが、ゆくゆくは消費税増税で対応したいというのが本音だろう。
安倍派の影響力が低下すれば、首相は好き放題の政策を展開し、逆に安倍派がまとまり影響力を保てば、最大派閥に配慮せざるを得なくなる。安倍派の状況が首相の政策判断を左右するだけに、その行方から目が離せない。
岸田派幹部は「集団指導体制が長続きするわけがない。分裂は時間の問題だ」とみているが、増税一筋はご勘弁願いたい。
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