森永卓郎 (C)週刊実話Web
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「異次元の少子化対策」その以前も~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

2022年の出生数は初めて80万人を割り込む見通しで、少子化が一層深刻化している。そのため、岸田文雄総理は1月4日に三重県伊勢市で行った年頭会見で、「異次元の少子化対策に挑戦する」と表明した。もともと岸田総理は「こども予算倍増」への道筋を23年6月の「骨太の方針」で示すとしていたが、予定を繰り上げ、「こども政策」の強化策を4月までにまとめるよう小倉將信少子化対策担当大臣に指示した。


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具体的には、すでに明らかになっている出産育児一時金の50万円への増額のほか、児童手当や幼児教育・保育サービスの拡充、育児休業制度の強化などが見込まれている。こうした政府の動きと歩調を合わせるように、小池百合子東京都知事も1月4日、18歳までの子供に月額5000円の給付を所得制限なしで行う方針を表明した。もちろん少子化対策は必要なのだが、問題は検討されている出産・子育て対策がほとんど効果を持たないということだ。


国立社会保障・人口問題研究所が実施した「出生動向基本調査」によると、2020年時点の夫婦の完結出生児数は1.9だった。つまり結婚さえすれば、いまでも2人近い子供ができているのだ。ということは、非婚化によって深刻な少子化が発生していることになり、非婚化の加速は結婚しないのではなく、結婚できないことが原因だと考えられる。

収入の底上げが重要

私のゼミの女子学生に「相手の年収がいくらだったら結婚しますか?」と聞いたら、全員が500万円以上と答えた。もちろんこれは希望ベースだが、労働政策研究・研修機構が2014年に発表した報告書で、20代後半男性の結婚率を見ると、年収150〜199万円が14.7%であるのに対して、年収500〜599万円だと53.3%に跳ね上がる。非正社員の平均年収は170万円だから、非正社員の男性はほとんど結婚してもらえない現実があるのだ。このことを前提にした場合、少子化対策は最低賃金を大幅に引き上げるか、同一労働同一賃金を徹底するなどして所得格差を縮めるべきなのだが、そうした対策は一切出てこない。その理由は「官僚バイアス」だと思う。

政策を考えるキャリア官僚は、省内結婚をしてパワーカップルになっていることが多い。彼らは自分たちの子育てに何をしてくれたら嬉しいかを考える。そうすると、保育所の待機児童解消とか出産一時金の増額とか、あるいは子育てに対する金銭支援を希望する。もちろん、そうした事業の効果がないとは言わないが、誰でも結婚できる世の中にしないと、出生数は回復しない。つまり、少子化対策を口実に、パワーカップルの生活をますます改善する政策が採られているのだ。


政府は子育て支援策に終始して、なぜ出生数の増加に結びつく低所得者の収入底上げをしないのか。この点に関しては、官僚バイアスのほかにもう一つ重要な理由がある。それは、財政の問題だ。実は、財政的に負担が大きいのは、高齢者のほかに子供なのだ。義務教育だけでなく、子供にはさまざまなコストがかかる。子供は納税をしないから、純粋な持ち出しだ。


だから、財政的に一番負担の小さい社会は、子育て期間に家にいる女性全員を労働市場に引っ張り出し、税金と社会保険料を払ってもらえば実現する。ただ、そんなことばかり考えているから、日本は少子化が止まらず、国力が衰退する一方になるのだ。