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『昭和猟奇事件大捜査線』第41回「ネグリジェ姿の内縁の妻が姦淫され絞殺…レイプ目的の強姦殺人なのか?」~ノンフィクションライター・小野一光

※画像はイメージです (画像)JinFujiwara / shutterstock

「おまわりさん大変です。清田さんの奥さんが殺されてます。早く来て!」

昭和30年代の関東地方某県。晩夏の午前1時ごろ、Z署J派出所に、ステテコ姿の男が駆け込んでくるなりそう言った。

見張り勤務中の巡査が、男を落ち着かせて事件の概要を聞き取ったところ、J町のアパートで、清田智之(仮名、以下同)の内縁の妻である坂本留美(22)が、タオルで首を絞められて死んでいるという。


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巡査は直ちにその旨を通信指令室を通じて本署に急報。Z署と県警本部から捜査員が現場に駆け付けた。

捜査員が目にしたのは、ネグリジェ姿でベッド下の絨毯にうつ伏せに倒れた女性で、鼻と口から多量の血液状の液体を出している。首にはタオルが巻きつけられており、その索溝がはっきり残っていることから、殺人事件であることは明らかだった。

死体を発見したのは内縁の夫の清田智之で、夜8時過ぎまでに妻からの電話がないため、出張先の県外から留美が働いているバー『タミー』に電話をかけたところ、前日から無断欠勤をしていることを知り、上司に事情を話して家に帰ってきたという。

午後11時50分ごろにアパートに着いたがドアをノックしても応答がなく、鍵がかかっていたため、付近に住んでいる義母の家に行き、午前1時ごろに再びアパートに戻ったが人の気配が感じられない。そこで窓を外して室内に入ったところ、留美の変わり果てた姿を見つけたのだった。

部屋を飛び出した智之は、隣人に警察への通報を依頼。捜査員が駆け付けたときには、死体のそばにいた。

死体の首に巻き付けられているタオルの両末端がほどけていることについて、智之は、「このタオルは家のものです。窓を壊して室内に入りましたが、妻がタオルで首を絞められ死んでいるのを見て、不憫に思い、私がタオルをほどきました。タオルは首の後ろで固く一結びしてありました」と説明する。

留美の死体はZ警察署に運ばれ、検証が行われた。着衣は薄紫色のネグリジェに白色スリップ、ピンクのブラジャーで、パンティーは穿いていなかった。

身持ちが堅い水商売の女

ネグリジェの後頚部にあたる部分には直径約10センチの黒色の染み。さらに前面ほぼ中央にも直径約10センチの黒色染みがあり、スリップの前面右下方に卵大の同様の染みが見られる。

また、性器には姦淫の跡があり、内部には白い粘液状のものが認められた。

さらに室内にあった現金や衣類などが持ち去られていることから、本事件は強盗、強姦、殺人事件として、Z署に捜査本部が設置されたのだった。

そこで立てられた初期捜査方針は以下の通り。

○被害者の足取り捜査
○現場一円の地取り捜査
○参考人の取り調べ

死体発見当日は、留美が建築関係の会社に勤める智之の出張先である、L県J市に行く予定になっていた。そのため前日に留美から電話をかけることになっていたが、その電話がなかったことから、彼女が犯行に巻き込まれたのは、それより前の日中だと推定された。

やがて同じアパートに住む女性から、捜査員は次の証言を得る。

「××日(死体発見の前日)の未明、夫とささいなことで口げんかになり、そのために寝付かれずにいたところ、清田さん家のドアをノックする音が聞こえました。間もなくドアが開く音がして、『勘定を払いに来た』と言っている年若い男の声と、清田さんが何か応えている声を聞いています」

留美についての評判は当初、水商売の女としては珍しいほど身が堅く、客との間にふしだらな関係や、デートなどもなかったというものだった。

だが、店や客関係の捜査を進めていくうちに、徐々に風向きが変わってくる。内偵が進むにつれて、留美が智之との同棲後、若い男とU川のほとりに梨狩りに行っていたことや、彼女に思いを寄せる数人の男のことで、智之としばしば痴話げんかになっていたことが判明したのである。

実は、智之は元バーテンダーで、留美とは同じ店にいたことで親しくなり、彼女と同棲を始めてから仕事を変え、建築会社に勤めていた。そんな智之が、捜査員の聴取に対し、気になる出来事を口にする。

「事件の1週間くらい前、出張先からバー『タミー』に電話をして妻と連絡をとったとき、彼女が『今日は珍しい人が店に来てる』と言うんです。それで親しげな口調で男に電話を代わると、男は私に『あんたは水商売から足を洗ったそうだけど、しっかりやりなよ』と、慣れ慣れしく話しかけてきたことがありました」

盗まれた衣類が入質された…

智之は男に覚えがなかったが、留美とかなり親しいように感じたため、妻に電話を代わるように伝え、その男の名前を尋ねたところ、「あら、あんたの知っている、豆腐屋の2階に住んでいた田村さんよ。今はJ県で自動車の助手をしているそうよ」と言ったため、「あんまり付き合うんじゃない。いいかげんに追っ払え」と注意したのだという。

一方で、智之の立ち会いによる現場検証によって、留美が殺害されていた部屋から持ち去られた被害金品が明らかになった。現金は約5000円で、その他は、女物オーバー、黒色スーツ、えんじ色スーツ、浴衣、茶色チェック背広上下、スーツケースとのことだった。

そこで捜査本部は以下の新たな捜査方針を樹立する。

○『タミー』にいた田村という客の内偵捜査
○被害品のぞう品捜査
○遺留指紋からの容疑者の割り出し
○現場周辺の地取り
○被害者の足取り
○敷鑑関係から容疑者の割り出し

やがて、『タミー』のママへの捜査と、留美が智之に口にした男の名前と住居によって「田村」を名乗っていた男は、本名が木村明男という24歳の男だと判明する。木村は「田村」の他にも「吉岡」という偽名を使っており、4カ月前から「吉岡」の偽名でJ町のバーでバーテンダーをしていたが、2カ月前に退職していることが分かる。

木村はチャコという女と同棲していたが、給料の大半を酒代に使い、その日の食事代にも事欠く有り様で、女はついに夜逃げしてしまったとのことだった。

これらの捜査と並行して、ぞう品の捜査を担当していた班が、J町の質店で留美の苗字である「坂本」のネームが入った女物オーバーほか4点の衣類が入質されているのを発見。入質者は人相から木村であることを突き止める。

さらに、遺留指紋について捜査していた班は、死体発見現場の洋服箪笥上の衣装箱の蓋と、洋服箪笥の引き出し、窓下の灰皿の縁から検出された指紋が、木村の指紋と符合することを確認した。

そこで捜査本部は木村明男を強盗、強姦、殺人の容疑者として逮捕状を請求。全国に指名手配を行ったのだった。

一度関係を結んだ人妻なら…

木村の行方を捜すなかで、彼が犯行の直前まで同棲した女がJ区内にいることが明らかになる。J区内のバーに勤めている神村京子というその女は捜査員に言う。

「木村は酒癖が悪く、気に入らないことがあると包丁などを持ち出して暴れるので、何回か別れようとしたが、親を殺すと脅迫され別れられなかった…」

しかし木村は、犯行の10日くらい前に、O駅そばのバーでウイスキー12杯を飲んだあげく、京子をそのバーに残したまま店を出て、消息は不明だという。

だが事態は急転直下で解決する。P県警が、木村を逮捕したというのだ。

所持金が尽きてしまい、とても逃げ切れないと観念した木村は、逃亡先のP県で自ら新聞社に連絡を入れ、「Z署から手配をされている木村明男だ。これから自首したいが、まだ警察に連絡してもらっては困る。自分の愚痴でも聞いてくれ」として、新聞記者の取材を受けていたのだった。

Z署に移送された木村は、あきれた犯行動機を語る。

「前に『タミー』に遊びに行ったとき、留美の夫が出張中であることを知り、関係を結ぶ計画を立てた。一度関係を結んだ人妻は、この事実を夫に知らせるというだけで、いくらでもカネを搾り取ることができるから、飲食代を支払うと口実をつけ、口説くつもりで留美の自宅に行ったんだ」

それが隣人の目撃していた深夜の訪問だった。だが、この夜は留美が「お釣りがないから」と玄関先で断ったことで、未遂に終わる。

「翌日の昼前にもう一度行くと、留美はネグリジェ姿で出てきた。そのときに部屋に入れてくれたので、『これ(親指)がいなくて寂しいだろう。俺ではどうだ?』と聞くと、『私はあんたと違ってひとり者ではないし、カネを払ってくれないのは困る』と拒絶されたんだ。それでカッとなって、持っていたナップザックのひもで首を絞めて…」

もみ合っているうちに、ネグリジェの裾が捲れ上がり、尻のあたりが丸見えになったことから、木村は欲情。パンティーを剥ぎ取ると、そのまま首を絞めつつ、背後から姦淫したと語る。

「もうこうなった以上は、金目のものを盗んでいこうと考えた。それで室内を物色してから、死体を元の位置に戻し、部屋を出た…」

そこに反省の色はまったく見えなかったという。

小野一光(おの・いっこう)福岡県北九州市出身。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。『灼熱のイラク戦場日記』『殺人犯との対話』『震災風俗嬢』『新版 家族喰い――尼崎連続変死事件の真相』など、著者多数。

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