
『キング・オブ・シーヴズ』
監督/ジェームズ・マーシュ
出演/マイケル・ケイン、ジム・ブロードベント、トム・コートネイ、チャーリー・コックス、ポール・ホワイトハウス、レイ・ウィンストン、マイケル・ガンボン
配給/キノフィルムズ
2015年、英国で実際に起きた史上最高額25億円の金庫破り。その犯人が平均年齢60歳オーバーのおじいちゃん泥棒たちの仕業だったとは! 他の年代の方が同じ感想を持つのだろうかという疑問を持ちつつ、この泥棒たちとほぼ同年代の自分は、かなり感情移入できて面白く見られました。
犯行中に眠くなったり、失禁したりと、いたるところに出てくる「初老あるある」の滑稽さと哀しさ。そういった感情がないまぜになって、この映画がそこを狙っているのかは定かではありませんが、同世代の自分には響くポイントでした。
近頃の強奪モノ映画だと、ハッキング等のハイテクを駆使した手口が幅を利かせていますが、このおじいちゃんたちが繰り出すのは、ドリルで壁に穴をブチ開け、手当たり次第に貸金庫を壊していくという古典的手法。ほとんど職人技です。実際の犯行も、連休を利用した2日がかりと悠長なことになっていて、そのゆったりとした時間の流れと、彼らの英国紳士然とした見た目が醸し出す雰囲気がよく合っていて心地いいんです。
英国人らしいウイットに富んだ会話が楽しい
これが、つい5年前の犯行なのが驚きなんですが、さすがに追撃する警察は昔のように足を使って追い詰めたりせず、プロファイルデータや盗聴器を駆使し、主にPC画面を見つめているだけで、その対比も面白い。犯行後、犯人たちがパブに集まり、盗品の分け前で小競り合いしている様子もすでに監視されていますが、捜査陣の方は台詞を極端に少なくして、この泥棒たちのゆったり感を邪魔しないようにしています。捜査会議の模様とかを詳しく描いていたら、凡百の刑事ドラマみたいになってしまいますからね。
そして、おじいちゃんたちの英国人らしいウイットに富んだ会話も面白さの一つ。60年代のBBCテレビで人気だった『モンティ・パイソン』を思わせる皮肉とおちょくり。その会話の中に、アルバニア人に対する英国人の偏見もあからさまに垣間見えていましたね。
東ヨーロッパの北朝鮮とも言われていたアルバニアは、20年前まで鎖国していた風変わりな国。私が訪れた際は、どこから攻められるわけでもないのに造りまくったコンクリート製のトーチカが、国中に放置されっぱなしという不思議な光景が広がっていました。
とまあ、英国流のシニカルな会話と、最高齢の窃盗集団の妙が楽しめる本作ですが、一つだけご注意を。全員白髪頭で、名前がテリーだのビリーだのと似ていて判別しづらい。事前にパンフで容姿の特徴とキャラ設定を叩き込んでからご覧になることをお勧めします。
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
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