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『棋士の瞬き』著者:野澤亘伸~話題の1冊☆著者インタビュー

『棋士の瞬き』マイナビ出版
『棋士の瞬き』マイナビ出版

『棋士の瞬き』マイナビ出版/3080円

野澤亘伸(のざわ・ひろのぶ)
1968年栃木県生まれ。上智大学法学部法律学科卒業。1993年より写真週刊誌『FLASH』の専属カメラマンになり、主に事件報道、芸能スクープ、スポーツなどを担当。2019年、『少年時代に交わした二つの約束』でペンクラブ大賞文芸部門の大賞を受賞。

――野澤さんが、将棋の棋士を撮影するようになったきっかけは何ですか?

野澤 将棋は子供の頃から好きで、高校時代には将棋部の主将を務めました。県大会の団体戦で準優勝しています。大学時代は将棋から離れましたが、カメラマンの仕事を始めた頃に私がアマ有段者であることが分かると、将棋関連の仕事が来るようになりました。2018年に「将棋の本を書かないか」というお話をいただき、棋士の師弟を取材したノンフィクション『師弟 棋士たち魂の伝承』を上梓しました。田舎の将棋少年だった私にとって、棋士は憧れの存在であり、撮影しながらインタビューさせていただく時間に、至上の喜びを感じています。

――羽生善治九段が階段をジャンプしている写真は、かなり衝撃的でした。

野澤 『将棋世界』誌での表紙・巻頭グラビアでの撮影でした。等々力渓谷で場所を移動しながら撮らせていただいたのですが、階段を降りてくるときに、ふと羽生九段が石段をジャンプしている姿が浮かんだのです。ちょっと無理なお願いかと思ったのですが、意外にも羽生九段は「こうですか~」と飛んでくれたのです。羽生九段にはこれまで何度も取材してきましたが、多忙な中で可能な限り応じてきてくれました。棋界を代表する存在として、将棋界とファンをつなぐ役割を担う気持ちが強いのだと思います。

勝負師たちの内面を表現した

――特に印象的な棋士、カットはなんですか?

野澤 中田功八段と行方尚史九段は、故大山康晴十五世名人門下の兄弟弟子であり、昭和の香りを強く残す棋士です。酒を好み、昔ながらの勝負師の雰囲気をまとった魅力がありますね。また、お二人の言葉そのものが文学のような響きがあり、聞き入ってしまいました。カメラを向けても絵になるのは、やはりその生き様が滲むからだと思います。行方九段の撮影のときは3月中旬にもかかわらず雪が降り、北国生まれの彼のイメージにぴったりでした。

――『棋士の瞬き』というタイトル通り、どの棋士の目も印象深いですね。

野澤 今回の写真集は棋士の目の表情に寄ったカットが多く入っています。棋士は盤上で互いの思考、感情をぶつけ合うため、言葉として発せられるものは非常に少ない。勝負師としての本心が会話に出ることも滅多にありません。その中で、いかに棋士の内面を表現するかを考えたとき、やはり目の表情に行き着くのです。「目で語り、唇で見つめる」。これが私の人物撮影の基本であり、勝負師たちが最も雄弁にその内面を語るのも目だと思っています。

(聞き手/程原ケン)

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