(画像)GAS-photo / shutterstock
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北朝鮮にはミサイルしかない!? 軍序列1位幹部を突然解任…新年早々“粛清”の嵐

1月1日、北朝鮮の金正恩総書記は異例の「元旦演説」を行った。同日これを報じた朝鮮中央通信は、最高指導者たる正恩氏をめぐる表現について「主体朝鮮の太陽」「並外れたリーダーシップ」「最高の愛国者」など、これでもかというほどの美辞麗句を並べ立てた。


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「2020年以降、正恩氏の公開活動が減っているにもかかわらず、国営メディアが公開する写真点数は以前に比べて増加しています。こうした報道の最大の目的は、宣伝を重視したナチスと同じく『イメージ先行型政治』の徹底です」(北朝鮮ウオッチャー)


正恩氏の第2子とみられる女児「ジュエ」の公開が、金一族のロイヤルファミリー化を狙ったものであるように、その取り巻きも含めて権力の維持に汲々としている様子が見て取れる。元旦から派手にミサイルを乱射してみせたものの、当面の北朝鮮は多くの不安材料を抱えているという。


「正恩氏は元旦演説の中で、1年前に華々しく宣言した核実験再開に言及していません。また、昨年8月に勝利宣言した新型コロナウイルスについても触れませんでした。つまり、誇るべき成果が出ていないのです」(極東アジア情勢に詳しい国際ジャーナリスト)


北朝鮮が豊渓里の核実験場で、これ見よがしに施設を修復したこともあり、米国と韓国、そして日本は昨年5月末の段階で、いつでも7回目の核実験に踏み切れる状況にあると判断した。しかし、それから現在まで膠着状態が続いている。


「昨春、中国の習近平国家主席が正恩氏に親書を送り、北朝鮮が核実験を強行した場合、国際社会で擁護することが難しくなると警告したのです。正恩氏は返書で中国の指摘は理解したとする一方、核実験の中止は約束しませんでした」(同)

コロナ対策も中国頼り…

ただ、北朝鮮の動きを見る限り、中国の圧力がきいているとも考えられる。核実験に踏み切ると、国連安全保障理事会から重油の禁輸が発動される可能性が高く、それに中国が異を唱えなければ、さらなる窮地に陥ってしまうからだ。

「コロナ対策においては、中国製の不活化ワクチンを輸入して接種している模様ですが、中国での感染爆発を見れば効果が期待できないのは明らか。正恩氏としては勝利宣言を出した以上、新型コロナの感染拡大について言及できない。すべてが手詰まり、逆に言えばミサイルを撃つしか能がないのです」(北朝鮮情勢に詳しい外交筋)


数年来の制裁下にある北朝鮮では、石炭や金属の貿易が厳しく制限されており、火力発電に必要な原油やタービンの輸入も思うように進んでいない。


「韓国の統計庁によれば、北朝鮮の電力生産量は2020年基準で韓国のわずか4%にすぎません。これでは国民の70%近くが、満足に電気を使えず暮らしていることになります」(同)


また、1日付の報道では驚愕の人事も明らかになった。事実上の軍のトップである朴正天中央軍事委員会副委員長の解任が伝えられ、後任に李永吉国防相が起用されたのだ。


「正恩氏は権力を継承した当初より、過剰なまでの粛清で実力者を排除しています。2012年には父の金正日総書記から厚い信任を受け、総参謀長の要職にあった李英浩氏を反革命分子として解任。翌年には叔母の夫である張成沢氏を反党反革命分派の容疑で軍事裁判にかけ、国家転覆を企てたとして処刑しています」(前出・北朝鮮ウオッチャー)

これからも人事入れ替わりは続く

その後も正恩氏は「会議中の居眠り」(玄永哲人民武力部長)、「会議中の姿勢不良」(金勇進副首相)、「異論提示」(崔英健副首相)など理不尽な罪目を押し付け、高位クラスの人物を残忍な方法で処刑している。

「正恩氏は自分を蹴落とす人間が出てこないように、今年も側近の入れ替えを続けていくでしょう。今回、昇格した永吉氏にしても16年に総参謀長を解任されており、降格からの復帰ということになります」(同)


さらに衝撃的な報道は、日本でも顔が知られている李容浩元外相まで粛清されていたことだ。韓国の国家情報院が1月5日の国会で明らかにしたもので、処刑説も流布している。


「容浩氏の処刑と前後して、同国の英国駐在外務省関係者が4〜5人ほど処刑されたという情報もあります。粛清の時期については昨夏から秋ごろとされていますが、罪目など詳しい事情は分かっていません」(前出・国際ジャーナリスト)


容浩氏は2016年から20年まで外相を務めたほか、駐英大使や北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議の首席代表などを歴任しており、北朝鮮を代表する外交官。米トランプ政権との非核化交渉にも当たった大物だ。


「現在の外交トップは崔善姫外相ですが、彼女も一度は教化所送りにされ、表舞台から消えています。容浩氏を本当に処刑したとすれば、北朝鮮の高位層が正恩氏に恐れをなし、離反する可能性も出てくる。ただ、大がかりな粛清となれば公開処刑が慣例ですが、そういった情報は確認されておらず、今後に注目する必要がありそうです」(同)


まるで回転ドアのような人事と言い、度重なる高位者の粛清と言い、北朝鮮は予知不能な国だ。突発的なミサイル乱射や核実験の強行について、今年も十分に警戒しなくてはならない。