森永卓郎 (C)週刊実話Web
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社会保障カットで防衛費倍増へ~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

岸田文雄総理がまた嘘をついた。これまで「防衛力の抜本的な強化のツケを次世代に残してはならない」として、国債の発行ではなく、増税への理解を求めてきたのだが、2023年度予算案では、これまで禁じられていた防衛費への建設国債発行を容認し、自衛隊の艦船や隊舎などの経費として4343億円の国債が発行されることになったのだ。安倍晋三元総理も防衛費の倍増を主張していたが、その財源は国債だった。岸田総理が防衛費の国債財源を認めるのであれば、増税は必要なかったはずだ。


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防衛関係費はさっそく爆発的に拡大し、前年度と比べて89%増の10兆1686億円となった。一種の積立金である防衛力強化資金3兆3806億円が含まれているので、瞬間風速ではあるものの、この防衛費は前年並みの予算となった公共事業関係費と文教及び科学振興費の合計である11兆4758億円に匹敵する予算額だ。


また、2020年の世界防衛費ランキングでは、首位のアメリカが7782憶ドル、2位の中国が2523億ドルだが、今回の防衛関係費は1ドル=130円で換算すると782億ドルに上り、インドやロシアを抜いて世界第3位の軍事大国となる計算だ。憲法で戦争の放棄と戦力の不保持を規定している国の姿として、それは正しいのだろうか。


今回の予算編成で、軍事費拡大の犠牲となったのが社会保障費だ。大手メディアは社会保障費が過去最大と報じているが、内実では社会保障カットが進んでいる。社会保障費は高齢化の影響で、制度を変えなくても自然増となる。財務省の資料によると自然増は7800億円だが、それを制度改革で1500億円ほど圧縮するという。薬価の改定や後期高齢者医療の患者負担増などが、その内訳だ。

確保されていない財源もある…

例えば後期高齢者の場合、医療費の窓口負担割合は、中所得者は1割から2割へと倍増された。後期高齢者から金を巻き上げて、防衛費につぎ込む構造だ。それだけではない。国立病院機構と地域医療機能推進機構が持つ積立金746億円を国庫に返納させ、防衛財源に回したのだ。

さらに予算全体を見ても、基礎的財政収支の赤字は10兆7613億円と、前年度比で2兆2850億円も財政赤字を削減している。財政引き締めだ。もし、防衛費の増額をせず、財政赤字の削減もしなかったら、7兆849億円が浮いたことになる。それを消費税減税に回せば、消費税率を7.5%に減税できることになる。そうすれば、物価高で苦しむ国民生活にとって願ってもない福音となるだけでなく、景気対策としても大きな効果を発揮するはずだ。


また、2023年度予算で注目すべきは、妊産婦らに10万円を配る事業の財源が確保されていないことだ。なぜ、財務省は財源を確保しなかったのか。実は政府税調では、防衛費の倍増に関して消費税増税を求める声も上がったという。しかし、財務省は「消費税は社会保障財源」と言い続けてきたから、さすがに消費税増税を打ち出すことができなかったのだ。


しかし、妊産婦への給付金は明確な社会保障費であるため、今年の給付開始に合わせて、財務省は消費税増税を打ち出す口実にしようとしているのではないだろうか。国民生活を犠牲にして、防衛費だけを増額していく。その姿は北朝鮮やロシアにも似ていると、私には思えてならない。