歌手・タレント/堀ちえみインタビュー〜舌がん闘病から奇跡の復活・デビュー40周年
2019年、ステージ4の舌がんを乗り越え、翌年には不死鳥のごとく芸能活動を再開した堀ちえみ。今年はデビュー40周年の節目でもあり、記念のコンサートを間近に控えてリハーサルと体調管理に余念のない日々だ。そんな彼女に、壮絶なリハビリ体験やアイドル82年組のエピソード、プライベートの秘話などを聞いた。
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――5年ぶりの周年コンサート『ちえみちゃん祭り2023』(2月15日東京・かつしかシンフォニーヒルズ、4月7日大阪・フェニーチェSACAY)が間近になりました。手術後、初めてファンの前で歌うことになるんですね?
堀 そうなんです。緊張するし、最後まで歌いきれるようにと頑張ってリハーサルに励んでいます。
――今回のコンサートにはどんなこだわりが?
堀 一つは、アイドルとして過ごした5年間に出したシングル20曲を全部歌おうということ。もう一つはメドレーには絶対にしないということです。昭和の歌は歌詞の1番から最後まで聞いてストーリーが完結するので、途中では切りたくないんです。
――舌を6割以上切除したと聞いていますが、ここまで回復できると思っていましたか?
堀 実を言うと、今こうして喋っているのも、音を最初から全部作っていただいたんです。切除した部分に自分の太ももの肉を移植して再建したのですが、今までとは発音の仕方が全然違うんですね。1音1音、出し方を練習しました。ただ、この声を聞いてファンの皆さんがショックを受けるのではないかという不安と、恥ずかしいという思いもあったのかな…。復帰は無理なのかなぁと思う時期もありました。
1曲歌うのに1年掛かり…
――それが吹っ切れたきっかけは?堀 私、子供が7人いるのですが、そのとき一番下の娘が16歳でした。私がデビューしたのが15歳なので、ほぼ同年齢です。その娘の一言がきっかけでした。
――なんと言われた?
堀 「このまま(復帰しないで)家にいたら、病気に負けちゃうよ。お母さんがこういう病気をしたというのは、みんなが分かってることなんだから、構わないんじゃない? もしもお母さんが恥ずかしいと思うのなら復帰しなくてもいいけど、そうじゃないんだったら復帰するべきだと思う」って。それで私はハッとしたんです。確かに、少しは恥ずかしいという気持ちはあったのかもしれない、でも、せっかく助けていただいた命なのに、やりたいことができないままの人生を送る母親を見ている子供の気持ちにもならなくちゃと。こういう喋り方でも、これが私なんだと思って見てもらえば何も恥ずかしいことなんかない。そう気づかされたんです。
――話すだけでも大変なのに、歌うのはそれ以上の苦労なのでは?
堀 復帰を決めた約3年前、最初に練習したのは『リ・ボ・ン』という曲でした。ボイストレーナーの先生について、歌いきれるようになるまで1年以上かかりました。1曲で1年? と焦りましたが、お世話になったその先生も突然の病で亡くなられてしまったんです。途方に暮れていたところ、前の先生のご縁で『アマゾンズ』というコーラスグループの方にお世話になっています。今回のコンサートでも、コーラスとして参加いただくんです。20曲歌いきれるかどうか。今は初めてフルマラソンに挑むような心境ですね。
――発音で一番苦労するのはどんな言葉ですか?
堀 「ら行」が一番大変です。舌を持ち上げないといけないのですが、そんなことを今まで意識したこともなかったので、当初はモゴモゴモゴという感じでくぐもってしまうんです。あとは「い行」。き、とか、ひなどが言いにくいですね。歌うときには舌を細かく動かして出す音が多いのですが、そういう意味では本当に日本語はきれいなんだなぁと再確認しました。
――手術を受けることになったとき、アイドル時代の仲間(通称・花の82年組。中森明菜、小泉今日子、石川秀美、三田寛子、シブがき隊など)はどんな反応だったのでしょう?
堀 手術の1週間ほど前、たまたまスタジオで早見優ちゃんに会ったので、初めて伝えました。話しているうちにお互い泣き出しちゃって、「ステージ4だし、手術後に話せるかどうかも分からない。申し訳ないけど、みんなには優ちゃんから伝えといて」って。そしたら直後に松本伊代ちゃんも他から聞いたらしくて電話が来たんです。「大丈夫だよ」って励ましてくれました。あとから聞いた話ですが、優ちゃんと伊代ちゃんが同期のみんなに回覧板を回してくれて、「手術の日には空を見上げて、みんなで祈ろう」と言ってくれたそうです。
ドラマは泥臭さが一世を風靡した!?
――そのお2人とは2005年に『キューティー★マミー』というユニットを結成。堀さんは1曲だけ参加されたんですね。堀 元々は『うたばん』(TBS系)という番組の企画もので、1曲だけ出しておしまいという話だったんです。コンサートもしないし、グループ活動もそんなにしなかったので、約束通りに脱退しました。でも、伊代ちゃん、優ちゃんとは今も仲良しですし、つい先日も伊代ちゃんと秀美ちゃんの3人で食事をしたばかりです。昔話からハマってる韓流ドラマのことまで、他愛もない話ばかり。寛子ちゃんと優ちゃんは都合が合わなかったけれど、「次回はみんなで集まろうね」と話していました。
――さて、堀さんといえばドラマ『スチュワーデス物語』(TBS系、1983〜1984年)が印象的ですが、ご自身の中ではどんな存在ですか?
堀 あのドラマの主演があったから今の自分があるし、私の名前が全国に広がり、翌年のレコードのセールスにもつながったんだと思います。やはり、なくてはならない存在です。
『スチュワーデス物語』は〝ドジでのろまなカメ〟〝教官!〟というセリフが流行語にもなるほど一世を風靡した大映テレビ制作のドラマ。当時の堀ちえみは16歳、高校2年生だった。
堀 最初にお話を聞いたときは、裕福な家庭には生まれなかったけれど、スチュワーデスを目指して努力し続ける女の子の物語…というコンセプトだったんです。なので、最後はビシッと制服に身を包んで国際線のスチュワーデスとして羽ばたくんだろうなと。ところが、台本に目を通したら「何これ? 泥臭くない!?」って(笑)。監督に最初に言われたのが、「そんなに高い声じゃダメだ。それじゃあ人の心を動かせない」でした。「何をやるにもすんなりできちゃダメ、もっとオドオドした感じで」という指導も受けました。衣装も、温かそうだと一生懸命さが伝わらないからと、真冬なのに半袖を着させられたり…。でも、現場は和気あいあいとしていましたよ。私は忙しすぎて撮影の合間はほとんど寝ていたんですけど。そんな私を見て、教官役の風間杜夫さんは「かわいそうだから、本番直前まで寝かせてあげよう」と言ってくれてたらしいです。
同級生の松本明子が…
――鬼教官役なのに(笑)。その忙しさが原因で、高校の卒業が遅れてしまったそうですね。堀 そうなんです。ドラマの撮影が1年ほどあり、その間はほとんど学校に行けませんでした。一応、3年間で卒業はできたのですが、厳しい高校だったので「このまま卒業させるわけにはいかない」と、卒業式の翌日から手の空いてる先生がマンツーマンで補習授業。1年後に改めて卒業証書を渡されたんです。
――それじゃあ、たまに学校に行くと新鮮だったでしょうね。
堀 そうなんですけど、本当にたまにしか行かなかったので、靴箱を開けると上履きが失くなっていることが多かったんです。
――もしや、いじめに遭っていたとか?
堀 いえ。学校の中にいるファンの人が、きっと堀ちえみの上履きが欲しかったんだと思います。体操服は毎回持ち帰れるけれど、上履きは置きっぱなし。鍵もかけられないので、仕方ないのかなって。学校に行くたびに上履きが盗られていて、私は購買部に行って新しいのを買う羽目になるんです。行列ができていたりすると、授業にも遅刻する…ということが何十回もありました。
――何十回!? それは尋常じゃない。
堀 あるとき、例によって遅れて教室に入っていくと、同級生の松本明子ちゃんが心配して声をかけてくれました。「どうしたの?」と聞かれて「上履きが…」と話すと「またぁ?」って。そういうことが何回かあった後、いつの間にか盗まれることがなくなったんです。「あれ? 今日はあるな。先生の厳重注意が効いたのかな」「あれ、またある。ああ、いよいよ私の人気も落ちてきたのかなぁ」って(笑)。卒業式の半年くらい前には、上履きのことで悩まされることもなくなっていました。
――ほろ苦い思い出ですね。
堀 ところがつい最近、と言っても手術を受ける少し前くらいですが、「上履き、明子ちゃんが買っていたらしいよ」と、周りの人から聞いたんです。えぇっ!? と思いますよね? そう言えばあの頃、明子ちゃんと現場で会ったりすると「今度はいつ学校に行くの?」と聞かれていたんですね。失くなっているのに気づいたら、私が登校する前に買っておいてくれてたんです。
――いつも新品を履いていたから、変化に気づかなかったわけだ。
堀 そうなんです。それを言わなかった明子ちゃんにも感謝。その後、確かめようとしたら「だって、毎回見てたらかわいそうで。ちえちゃんが学校に来たくなくなっちゃうんじゃないかと思って」って言うんです。もう、ありがたすぎて涙が出ちゃいました。
◆ほりちえみ 1967年2月15日生まれ。大阪府堺市出身。第6回「ホリプロタレントスカウトキャラバン」グランプリ。82年『潮風の少女/メルシ・ボク』で歌手デビュー。『スタア誕生』『花嫁衣裳は誰が着る』(共にフジテレビ系)などでも主演。オフィシャルブログ『hori-day』のフォロワーは約34万人。
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