企業経済深層レポート (C)週刊実話Web 
企業経済深層レポート (C)週刊実話Web 

ニッポンの新『人手不足』改革〜企業経済深層レポート

「いらっしゃいませ」「商品を設置のバーコードでスキャンしてください」――。


客がレジ前のモニターに話しかけると、映し出されたアニメーション店員が接客してくれる。もちろん、代替店員から離れた先にはカメラで客をウオッチするスタッフが存在するが、そんな未来型店舗『グリーンローソン』が昨年11月、東京・大塚にオープンした。


【関連】外国人投資家の“日本の不動産”買い占めが地方・観光地にも波及〜企業経済深層レポート ほか

出店した大手コンビニエンスチェーン『ローソン』によれば、この試みは労働力不足の解消を狙ったものだが、今や人手不足は日本中にまん延。昨年半ばに政府が、「ウィズコロナ」を見据えた経済政策へ舵を切って以降、その傾向はより鮮明になっている。


某シンクタンク関係者が解説する。


「政府の対策緩和で、昨年10月の成田空港の国際線利用客は2年8カ月ぶりに100万人を突破。ところが、対照的に『帝国データバンク』の同年10月の調査では、正社員に人手不足を感じている企業が51.1%、非正規社員では31%に上り、新型コロナ感染が本格化した2020年春以降で最も高い。特に需要が回復基調にある旅館やホテル、外食産業を中心に、深刻な事態に陥っているのです」


だがこうした状況だけに、未曽有の事態を知恵と工夫で乗り切ろうする企業も続出中。その一つが冒頭で紹介した『ローソン』なのだ。IT業界関係者がこう語る。


「『ローソン』は、昨年春から実店舗での代替店員の導入を模索してきた。その上で全員参加型社会の実現につなげようと、シニアや子育て中の主婦、障害を持つ方など400人前後を面接し、約30人のアバタースタッフを採用。研修を行い『グリーンローソン』の開業にこぎつけたのです」

 “手当支給”や“採用法”でメリット豊富に

アバター店員はこの1号店の実績を踏まえ、将来的には東京の店舗のアバターに沖縄や海外のスタッフが対応することも可能だという。また、今後同社はアバター接客店を3年前後で100店舗まで拡大する方針を打ち出しているのだ。

一方、人手不足に「潤沢な報酬」で立ち向かおうとする企業も存在する。


「その代表格が、中華料理チェーンの『日高屋』を運営する『ハイデイ日高』。同社は昨年5月以降採用した中途社員に、50万円の入社手当を支給する制度を行っている。狙いはズバリ、即戦力の取り込みです」(経営コンサルタント)


『日高屋』が「入社祝い金」名目で支払っているこの手当は、今では同業他社や異業種から転職する者の増加と定着に一役買っているという。また、同じく報酬厚遇で人材確保を目指す動きは、自動車会社の期間工やタクシー会社などでも広がりを見せている。


不用品のネット売買を展開する『メルカリ』は、「リファラル採用」という方法で人材確保に取り組んでいる。この方法は社員が推薦、紹介する人材を入社させる制度だが、そのメリットは多岐にわたるという。


人事コンサルタントが指摘する。


「リファラル採用のメリットは、社員が目をつけた即戦力になり得る人材が確保できること。また、同制度で応募する者は、社内の空気や仕事も紹介者から聞いており、離職率も低いという。ただ、そうした中でも最も重宝されているのは採用コストの削減で、社員紹介で入社すると費用がかなり抑えられるのです」

新しい“バーチャル社員”制度

通常、社員採用には人材紹介会社や求人媒体を利用するケースが多く、一定のコストがかかる。それと比べれば、リファラル採用は社員に紹介料を支払ったとしてもコストが抑えられ、人材確保の際に起きる他社との争奪戦も避けられる。

「そのため、近年は『メルカリ』だけでなく大阪発祥の飲食チェーン『串カツ田中』を筆頭に、活用する企業が急増中。転職サイトの『ビズリーチ』などは、創業時から積極的に取り入れていたといいます」(前同)


食べるスープの専門店を全国展開する『スープストックトーキョー』は、一風変わった「バーチャル社員制度」と題した人材確保策を進めている。


この制度は退職する社員に新商品の試食会をはじめとする催しに参加できる「バーチャル社員証」を発行。離職後もかかわりを持ち続けることで、子育てが一段落した女性たちが職場に復帰しやすい環境を提供しているという。


また人手不足の解消策として、当然ながらIT化も避けては通れない。分かりやすい例が、外食産業で目立ち始めたロボットの導入だ。経済紙記者がこう話す。


「『ガスト』や『バーミヤン』などを運営する『すかいらーくホールディングス』は、中国製の配膳ロボットを昨年末までに3000台導入。『名古屋プリンスホテル』のスカイレストランも食後の食器を洗い場に運ぶ下膳ロボを導入したほどです。これらは人手不足と人件費のカットに一定の効果を見せているが、実は面倒な一部の仕事をロボットが受け持つことで、従業員の離職率の低下にもつながっているのです」


あるシンクタンクの調査によれば、2030年に日本の人手不足は600〜700万人に達するという。だが、「それらは経営サイド側の知恵と努力で補える」という声も強い。要は、事態を乗り切る勇気を持つことが大切なのだ。