渡辺いっけい (C)週刊実話Web
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「正直、断ろうと思った役柄」渡辺いっけい映画『マリッジカウンセラー』公開記念インタビュー

結婚相談所で働く仲人たちの奮闘を描いたハートフルコメディー映画『マリッジカウンセラー』が公開間近となった。主演を務める渡辺いっけいさんに、同作の見どころ、撮影秘話などを聞いた。


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来年1月13日より全国公開の『マリッジカウンセラー』は、昔ながらの結婚相談所を舞台にした、幸せになりたい男女とそれを応援する仲人たちのハートフルコメディー。主人公は、大手不動産会社に勤め、かつてはトップ営業マンだった過去の栄光を自慢し続けるオヤジ・赤羽昭雄だ。ある日、赤羽が会社の辞令で結婚相談所に出向になるところから物語はスタートする。


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今回、セクハラ・パワハラ当たり前といった〝ザ・昭和のオトコ〟赤羽を演じたのは、名バイプレイヤーとして数々の映画・ドラマで活躍する俳優・渡辺いっけいさん。役者として40年のキャリアを持つ渡辺さんだが、今回演じた赤羽のキャラクターには、なかなか苦労したそうで…。一体どんな作品に仕上がっているのか。


――はじめに、今作の脚本を初めて読んだときの印象はいかがでしたか?


渡辺「僕が演じる赤羽は、間違いなく人に嫌われるタイプの人間だと感じましたね。プロットの段階で読んだのですが、まあひどい(笑)。正直、これを演じるのは無理だ、断ろう、と思ったくらいだったんです」


――渡辺さんが無理だと思うとは相当ですね…。例えばどんなシーンでひどいと感じたのでしょうか。


渡辺「冒頭で、マンション購入を考える独身の女性に、赤羽が物件を紹介する場面があるのですが、そこでわざわざ結婚のことや女なのに…という話を持ち出すんです。調子よく話を合わせてるつもりが、相手を不快にさせていて、怒らせてしまうけど、なぜ怒っているか分からない。なんでこんなあからさまに酷い言葉を…と思いつつ、役を成立させるために必死にやりました」

昔話に花を咲かせるのはやめよう

――なるほど。ですが、それは耳が痛い人も中にはいるかもしれないですね…。

渡辺「実際に、完成した作品を見た方の中からは『いるいる、こういう人』という声がわりと上がっていたので、驚きましたね」


――他人の気持ちを推し量れないタイプというか…。


渡辺「僕はあそこまでひどい人には会ったことがなかったので、衝撃でした。ただ、赤羽は基本痛い奴だと思いつつ、自分にも近しい部分があるので、気をつけようと戒めになった役でもあったんです」


――近しいと感じたのは、どんなところでしょうか。


渡辺「何年も前の昔話をずっとしているところですね(笑)。若い頃を知ってる人たちと集まるとついつい、昔話に花が咲いちゃうじゃないですか。でも、あれはやめた方がいいって、わりと最近考えていたんです」


――なぜ、そうお考えに?


渡辺「昔話をしてるときって今に立ち向かってない気がするんですよ。役者のジャンルの中でも一定数いるんですが、結局それは〝今の現場〟の話ではない。クリエイティブな方向に向かえていないと感じたんです」


――劇中で赤羽は、結婚相談所に集う人たちとの出会いによって、少しずつ変わっていきます。


渡辺「後半、青山倫子ちゃんが演じる相談所の会員さんに、自分の仲人を担当してほしいとお願いされる場面があります。すると、赤羽がいつものように得意げに、昔は営業トップだった俺、の話をしようとするんです。でも、そこで赤羽は、話をしかけてやめる。さりげないシーンですけど、僕は好きなんです。過去ではなく、前を向いて今、目の前にいる人との関係から新たな結果を作っていくんだ、という気持ちの表れなので」

楽しみにしていた凱旋もコロナ禍で

――実際に、渡辺さんの周囲で、今を大切にしているな、と思う方はいますか?

渡辺「一昨年、映画『バイプレイヤーズ』を撮影した際に、同学年で昔馴染みの松重豊が、たばこも酒もやめたって言うんです。びっくりですよ。しかも『バイプレイヤーズ』の出演者でいうと、遠藤憲一さんや津田寛治くんもやめたと聞いて。みんな口を揃えて言うのが『クリエイティブな時間が増えていいですよ』と。実際に松重さんはエッセイを出版されて『酒をやめたからできた』と言ってました。皆さん、今を大事にして、次の作品や新しい分野に向かう姿勢として、見習うべきことが多いですね。僕はちょっとまだ酒はやめられないけど(笑)」


――世代的に近しい方々のそういったお話は、刺激になりますか。


渡辺「そうですね。もちろん、それは役者の世界の話に限らずで。僕は今ちょうど60歳なのですが、世の中にはすでに仕事を定年で辞めて新たな人生が始まっている人もいますよね。僕の地元の同級生もそうで、自宅を自分でリフォームしたり、素人とは思えないレベルで庭を工事していたりとか、ものすごいバイタリティーなんですよ。なんなら、その道で今後生きていければと話しているほど。地元で第二の人生を送っている彼は、僕にとって刺激になっていますね」


――素敵ですね。ちなみに、今回の映画は渡辺さんの地元である愛知県豊川市を中心に撮影されました。凱旋撮影はいかがでしたか。


渡辺「豊川で撮影できることをすごく楽しみにしていたのですが、コロナ禍の状況で、密になるから来ないでね、と地元のみんなに伝えるのが悲しかったですね。差し入れも断腸の思いで断り続けて。みずくせえなあ〜と言われましたよ」


――断るのも辛いですよね。


渡辺「昔から、役者になって、いつかここで撮影できたら、みんなに見てもらえるな、とずっと考えていたので、絶好の機会だったんですけどね。ただ、エキストラに参加するのが趣味の友達には会えたりしてね。仕事で来てるからさって言ってたね(笑)」


――共演者の皆さんとは、撮影中どのように過ごされていましたか。


渡辺「それも大人数は難しかったのですが、松本若菜ちゃんを含めた数人で美味しいお店を紹介して食べに行きました。若菜ちゃんは、そこのお店がすごく気に入ったみたいで、別の番組でも紹介していましたね」

「あ、俺、この子と相性がいいな、と思った」

――そうだったんですね。松本若菜さんとは、今回が初共演でしたか?

渡辺「同じ映画に出たことがありますが、絡みの役は初めてですね。実はマネジャー同士が昔から仲が良くて、ブレーク前から、話は聞いていてね」


――実際にお会いして、共演されていかがでしたか。


渡辺「いざ、会ってみたら、あ、俺、この子と相性いいな、と思ったんです。言っても女優さんなんで、どこか気を遣わなくてはいけないところがあるものなんです。気を遣うことで、その人が作品の中で気持ちよく役に入れることが大切なので。でも、そういったことが全くない方でした」


――なるほど。それは、フィーリングが合っていたということなのでしょうか。


渡辺「そうですねえ…。恐らく、人としての徳の積み方が違うのかと思います。僕より彼女の方が積んでいるんですよ(笑)。僕に気を遣わせない何かを出していて、勝手に相性がいいな、と思い込んでいただけかもしれません。なんなら、若菜ちゃんと絡む役者は、みんなそう思ってるのかもしれないしね」


――それが松本さんの人気の所以かもしれません。


渡辺「本当に一緒にやっていて、楽しい撮影でしたね。僕自身が明るいタイプじゃないので(笑)、彼女がいることで現場が明るくなったと思います」


――劇中でも赤羽が、松本さん演じる時田結衣と一緒になって会員さんたちと向き合うことで、相談所全体の雰囲気に変化が起きますよね。


渡辺「赤羽は仕事ではあるけれども、最終的にはその人の幸せを願って、周りと協力しながらピュアに頑張るんですよ。結衣さんとも、足りない部分を補いながら一緒にミッションを成功させようとする。僕自身がそうかと聞かれたら、たぶんそこまでできないので、尊敬しますね」


――年齢的にも、新しい場所で臆さずに働いているのもすごいですよね。


渡辺「会員さんとの相性もあるけど、こんなに頼れる人いないじゃんって思っちゃいます。もし相談所に行こうか躊躇している人がいたら、この映画を見て、行ってみようかなと思ってくれるといいですね。そんな人が現れてくれたら嬉しいです」


(文/kitsune 企画・撮影/丸山剛史 ヘアメイク/戸澤奈月)
わたなべ いっけい 1962年、愛知県出身。大阪芸術大学在学中に劇団☆新感線に参加し、大学卒業後に上京して状況劇場に入団。NHKの連続テレビ小説『ひらり』で人気を博し、以降は数多の映画やテレビドラマで活躍を続けている。