森永卓郎 (C)週刊実話Web
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大きく転換した公明党の平和理念~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

自民、公明の両党は、12月2日に安保関連3文書の改定に向けた実務者協議会を開き、焦点だった「敵基地攻撃能力の保有」を認めることで正式合意した。公明党の山口那津男代表は会見で、「最近の安全保障環境の厳しい変化、状況に対応して、国民の不安を解消するために防衛のあり方を抜本的に見直す検討をしてきた結果だ」と述べた。


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しかし、敵のミサイル発射拠点などをたたく敵基地攻撃能力の保有は、憲法の規定から「専守防衛」に徹してきた自衛隊の役割を劇的に変化させる。一部の報道では、すでに政府は米国製の巡航ミサイル「トマホーク」を最大500発ほど配備する方針だという。ただし、実際に攻撃に使うためには、武力攻撃事態・存立危機事態対処法に基づく「対処基本方針」を閣議決定し、国会で承認を受けた場合に限られる。


つまり、先制攻撃にはミサイルを使えず、反撃能力を保有すること自体が、日本への攻撃を思いとどまらせる抑止力になるというのが政府の説明だ。したがって、今回の敵基地攻撃能力の保有は、日本が掲げてきた専守防衛の範囲内ということになっている。


しかし、ウクライナの例で考えてみれば、敵基地攻撃能力が何をもたらすかは明らかだ。もし、ウクライナがロシア本土の基地を本格的に攻撃したら、それは即刻、全面戦争に発展するだろう。


また、憲法9条は「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と、うたっている。だから、ミサイルで敵国を威嚇すること自体が、憲法に違反するのだ。

なぜか絶妙なタイミングで

私は、公明党が敵基地攻撃能力の保有に徹底抗戦すると思っていた。福祉と平和をアイデンティティーとして掲げてきた公明党が、戦争を目指すとは考えられなかったからだ。しかし今回、公明党は平和の理念を大きく転換したことになる。

実は、同じ12月2日に政府・与党は、旧統一教会の問題を受けた救済新法の修正協議に入った。ただ、野党が求める「信者が寄付をする場合の自由な意思を宗教側が抑圧することを禁止する」という規定を配慮義務にとどめている。


また、最大の焦点であるいわゆるマインドコントロール下で行われた高額献金について、家族が返金を求められるという規定に関しては、裁判で認められたとしても、全額返金ではなく、家族が本来受けられたであろう養育費などに限定されることになっている。


公明党の支持母体である創価学会も、高額の献金を受けており、万が一、全額返金が可能な法案が成立したら、宗教団体の経営は成り立たなくなる。だから、宗教団体の立場からは、全額返金の法律は何が何でも避けなければならないのだ。


今回、自民党が公明党に対して、救済法案の内容で譲歩した引き換えに、公明党が敵基地攻撃能力の保有を認める取引をしたという証拠はどこにもない。ただ、あまりにタイミングが一致しすぎている。憲法20条は「いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない」と、政教分離を規定している。


証拠がないから、憲法違反で訴えることは難しいのかもしれない。しかし、ずっと平和主義を理念としてきた公明党の支持者たちは、今回の敵基地攻撃能力の保有をどう考えているのだろうか。


公明党が自民党の暴走に対して、歯止めの役割を果たしてきたことは事実だ。しかし、今回の無抵抗ぶりが、公明党が連立政権に加わる意義を不明確にしたことは間違いないだろう。