和歌山県和歌山市の新雑賀町。ソープ街の裏を流れるドブ川でキチヌの数釣り、そして最後にはウナギまで釣れて楽しいひとときをすごした前回。道具を片付けて、さて帰りますかと川沿いを歩いていると、ウナギの絵が描かれた看板の明かりが目に入りました。
高度経済成長期よりはるか前の、その昔は目の前の川でウナギを捕り、提供するウナギ屋さんも多かったため、現在でもその名残りで川沿いに店を構えるウナギ屋さんは結構あります。こちらもそういった一軒かと、何の気なしに店内を覗くと…楽しそうにウナギ釣りに興じる若いカップルが一組。うおっ! ウナギはウナギでも、ウナギ釣りのお店か!? 改めて看板を見ると、青いウナギの絵の横には赤い字で〝つり〟と書いてあります。まさか、きょうび、こんなお店があったとは…。
今から40年ほど前、まだ小さかった時分には、お祭りの縁日で時折、目にしたウナギ釣り。まだ子供だったこともあって釣れた試しはありませんが、親に小遣いをねだって縁日のウナギ釣りにアツくなった思い出が甦ります。金魚すくいなどに比べて少々お高く、やらせてもらっても1回だけ。いつも糸を切られては「もう1回やりたいなぁ」と、後ろ髪を引かれながら帰ったのも懐かしい思い出です。あれから40年、今では5〜7月のほぼ毎日(連載取材以外の日)と言っていいほど、ウナギ釣りに興じるワタクシとしては、やらないわけにはまいりません。
お店に入ると彼女さんが、まさに今、ウナギを掛けてやりとりの真っ最中です。水槽の周りを回りながら弱らせて上手く抜き上げ、ウナギを水槽の外に出せればOKというルールのようです。しばし見守り、ドキドキの抜き上げ…糸が切れてしまいました。見ているこちらもアツくなり、ついわがことのように悔しくなってしまいます。
オッサン歓喜40年のリベンジ
銀髪イケメンの彼氏さんから、「もう1回やりなよ」ということで再びチャレンジの彼女さん。「尻尾が動かなくなるまで待って」と、お店のご主人も応援するなか、じっくり弱らせて、今度は無事キャッチ! 店内は大盛り上がりです。なかなかやりますなぁ。それにしても、こういった昔ながらの遊びを、今風のカップルが楽しむ姿を見るとオッサンはなんだか嬉しくなってしまいます。
さて、ワタクシもやりますか。水槽を覗き込むと、どれもよく肥えて旨そうなウナギたち。そのなかで1尾だけ、やや小振りのウナギに狙いを定め、錨バリをエラのあたりに引っ掛けます。ここまでは予定通り。違和感があってイヤイヤをするウナギを、なるべく刺激せぬよう、それでいてジワジワと弱らせるべく適度な負荷を与え続けます。少しずつ抵抗が激しくなるウナギ。ウナギに合わせて水槽を回りながらだましだまし、さらに負荷をかけ続けて弱らせます。5分ほどすると、だいぶ大人しくなってきました。いよいよハイライトの抜き上げです。
ゆっくりと数回、竿を上下させてウナギに勢いをつけてから、その流れを利用してウナギを水槽の外に。やった!! 成功です。40年前のオレ、オッサンになった今、リベンジ成功やで! まあ、露店と比べて、このお店が良心的ということもあるのでしょうが。
貴重な文化店内でほっこり
釣り上げたウナギは、お店のご主人がその場で裂いて蒲焼きにしてくれます。しかもお店にはビールもあるので、いきなり最高の晩酌が楽しめます。焼き上がるまでいろいろとお話を伺うと、御年80歳のご主人は2代目で、この〝大阪屋〟さんはお父様の代からで創業70年余とのこと。ウナギ釣りのお店は「大阪にのれん分けをしたお店が1軒あるくらいで、他にはないのでは」ということで、日本の文化を今に伝える貴重なお店かと。
さて、焼き上がって食べてみると〝地焼き〟ということもあり、養殖ウナギながら〝ウナギ食ってる感〟を強く感じさせてくれるブリブリの歯応えと適度な脂乗り。骨は当たらず非常に旨い蒲焼きです。釣った嬉しさからのひいき目は抜きにして、本当に旨い。いつも、釣ったウナギは3〜4日立ててから蒸して焼いていたのですが、今度は地焼きもアリですな。
缶ビールをやりながらウナギをつまみ、ご主人やお客さんのカップルと話も弾みます。ゆったりとした語り口の優しく柔和なご主人、彼氏さんは〝ブレイキングダウン〟という格闘技の選手とのことで、「目標はRIZINです」と語る目はキラキラと輝いていました。期せずして通りかかった古びたウナギ釣りのお店で、なんともほっこりした素晴らしい時間をすごすことができたのでありました。
三橋雅彦(みつはしまさひこ)
子供のころから釣り好きで〝釣り一筋〟の青春時代を過ごす。当然のごとく魚関係の仕事に就き、海釣り専門誌の常連筆者も務めたほどの釣りisマイライフな人。好色。
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