『チーム・ジンバブエのソムリエたち』
監督/ワーウィック・ロス、ロバート・コー
配給/アルバトロス・フィルム
今回は、映画配給側の意図とは違う感想になるかと思います。なんせ自分はワインが苦手。というよりも「ワインを語る連中が虫が好かない」。本作はまさにその大会。
2017年にフランス・ブルゴーニュで開催された「世界ブラインドワインテイスティング選手権」に、ワイン生産も消費もほぼゼロのジンバブエ出身のソムリエたちが挑戦するドキュメンタリーです。
「ワイン? てやんでぇ!」と思っている自分ですが、気づいたことがあります。これは味わうというより、一種のスポーツじゃないかと。脚を使うのがサッカーや陸上なら、鼻や舌など感覚器を競うのがテイスティングだと思うと、妙に合点がいきました。スポーツはそもそもが意味は二の次で、何かを突き詰めていくもの。そう考えれば、品種だの産地だのヴィンテージだの、こっちにしたらどうでもいいことにこだわって競うのも、一種のスポーツと言えなくもない。だから国対抗で戦ってるのですね。
一方で、自分の琴線に触れたのはワインではなく、ジンバブエという絶望的な国から這い上がる話の方です。失業率は80%超、ハイパーインフレ、極端な物資不足、強盗や窃盗は日常茶飯事。未来の見えない国を出て難民になる人が後を絶たない国。この映画の主人公たちも、命懸けで南アフリカに逃れ、運よく高級レストランのソムリエの職を得た4人。クラウドファンディングで資金を集め世界大会に初挑戦します。
心の拠り所は祖国『ジンバブエ』
ワインなんていうスノッブな世界は、客はもちろんソムリエも白人が主流。出場メンバー全員が、難民かつ黒人というのは初めてなんですね。有色人種がアウェー側なのは日本人とて同様。映画に出てきたワイン産地を示した世界地図に、中国には印があるものの、日本には印がついていません。日本産のワインも各地にありますが、どうやら勘定に入れられてない模様。
さて、コロナ前は南米やアフリカなどを訪れるのが趣味の一つだった自分は、ジンバブエには約20年前に、彼らが逃れた先の南アフリカと合わせて行きました。この映画のオープニングで映った南アフリカの街並みを見て「ああ懐かしい、ソウェトだ」とすぐ分かりました。アパルトヘイト時代の元黒人専用居住区です。
今なお厳然と格差が残る当地で、難民からよくぞ活路を見出してきたと思うし、この大会で注目されてなお、心の拠り所は祖国ジンバブエにあり、それぞれの方法で貢献する姿に心動かされました。コロナ、円安による渡航費の爆上がりと障壁は高くなりましたが、元気な間にまたアフリカの地を踏みたいと熱が呼び覚まされた映画でした。
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。