インタビュー・元町工場芸人・U字工事〜「栃木特化型漫才」ができるまで〜
「地方住みます芸人」など、日本全国どこかの都道府県に特化した芸人はいまや珍しくないが、その「元祖」と言うべき存在が栃木県出身、U字工事のお二人だ。「ごめんねごめんね〜!!」のフレーズでご記憶の方も多いだろう。結成22年目となったコンビの歴史などをお聞きした。
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――今年で結成22年目ですが、高校時代からすでにお二人で漫才をやっていらっしゃったんですよね。
福田薫(以下、福田)「僕がラグビー部内で先輩から『何かやれ』と言われ、部員の明るい友達と一緒にみんなを笑わせたんですが、教室でもやりたくなったんです。それでクラスメートに声をかけたらみんな恥ずかしがって、最後の最後に益子に頼んだら『いいよ』って。遊びの延長でここまできてしまいました」
――高校卒業後も、同じ大学に進学していますね。
福田「アルバイト先も同じでな。小さい町工場っすね」
益子卓郎(以下、益子)「マグネシウム工場です。上の工場に出荷を煽られて、猫の手も借りたいような状態で毎日出勤が当たり前で」
福田「益子は作業ズボンを穿いたまま会社を抜けて授業に行っていました」
益子「粉塵まみれでな。『オメ二部だろ!』と思われる格好です」
――大学も仕事も一緒、そして芸人としても一緒に?
福田「出荷が終わらないので必ず7時半まで残業したあと、途中のスーパーで半額の惣菜とカップラーメンを買って、そこからどっちかの家でネタ作りです」
――当時は芸人として、どんな活動をしていらっしゃったのでしょうか。
益子「浅草キッドさんのライブ『浅草お兄さん会』に3年間、月1回出させてもらっていました」
福田「お笑い専門誌の三行広告に『浅草お兄さん会、ネタ見せ募集』と書いてあったのを僕が見つけてきたんですよ。で、行ったらキッドさんが直々にネタを見てくれて」
益子「その前まで『漫才で訛りをやめよう』と言っていたんですが、キッドさんに『訛りは出したほうがいいんだよ』と教わって、ウケるようになりました」
――いつごろですか?
益子「19〜20歳ごろ、フリーで活動していた時期です。『お兄さん会』は、フリー芸人を集めて異端児でライブを盛り上げる、みたいなスタンスでやっていたんですが、俺らだけ学生で、わけも分からずに参加して」
福田「初代東京ダイナマイトさんやマキタスポーツさんとか、濃い方々が多かったです。今はニュース解説とかしているプチ鹿島さんも『骨太熱』というコンビでいたり、すごかったんですよ」
オーディションどこを受けても…
――プチ鹿島さんはどんなことをやってたんですか?福田「縄跳びを鞭みたいに持って…」
益子「それはその後のコンビ『俺のバカ』の頃だろ」
福田「あれ? そうだっけ」
――人に歴史ありですね!
益子「そういう人らが、みんな舞台上で最後にスッポンポンになって、『これがお笑いだ!』とかやっていたんですけど、俺らは『おまえらはこの団体の中ではアイドルだから、脱がなくていいよ』と言われ、真面目にネタをやっていました」
福田「当時のお笑いファンは女の子が多かったけど、このライブ客は男の子が多くて。そこでは、今も親交があるガンビーノ小林さんという方に、酒の飲み方や社会の理不尽さなんかも教わりました」
益子「吉本の話を聞いていると、先輩が全部おごるとかあるじゃないですか。でもここでは『金がある奴が払う』。今は裁判ウォッチャーとして知られる阿曽山大噴火さんもいて、『メシ行きましょう』と言っても来ないんです。『おごりますから』と言うと来てくれます。『この人、先輩だよな…?』と思いながら」
――芸や社会の何たるかを学んだ場所だったんですね。
益子「その団体が解散したとき、みんなオフィス北野に入ったり自分らでインディーズ団体を作ったりしたんですが、ハチミツ二郎さんが『君たちはまだ若いし、いっぱい事務所に入れる可能性があるからそっちに行ったほうがいいよ』と言ってくださって、ナベプロ、ホリプロ、マセキ芸能社、人力舎…あちこちオーディションを受けたけど、どこ行ってもダメで」
福田「ケイダッシュも行ったんです。そのときオードリーもいて、ケイダッシュは先見の明があってちゃんと合格させていました」
益子「あとから聞いたら、みんな何度も通い詰めてやっと認めてもらい所属する、という流れだったみたいで。俺らは1回で諦めていたんです。その頃になると『どこでもいいから入るか』くらいになって。そしたらアミー・パークっつう小さい事務所を見つけてネタ見せに行ったら、『まあタバコでも吸ってからやってください』って始まって」
福田「普通は審査する側の人たちって怖いんですよ。でもアミー・パークは俺らのネタに『わはははは!』って。なんてあったかい事務所なんだ、と」
益子「で、『ここでいいよな?』と所属しました」
栃木ネタでM−1決勝へ
――その当時から栃木に特化したネタをやっていたんですか?福田「田舎くさいネタは作り始めていたよね」
益子「まだ特化はしてないです。トラックで田園を駆け巡るとか、それである程度はウケていたんですが飛び抜けられなくて」
福田「M-1も2003年から07年までずっと準決勝で負けていました。準決勝では、僕らの前にそのとき決勝に行くフットボールアワーさんが出て、『恐ろしいくらいにウケているな』と思ったのを覚えています。笑いの爆発力が全然違うんですよ。舞台に出るのに、明らかに萎縮しましたね」
益子「俺らは決勝はムリだと、肌感覚で分かるんです。それで08年、栃木に特化したネタをやって」
福田「突き抜けられて、決勝に行けました」
――栃木ネタにたどり着いたきっかけは?
福田「当時のテレビ朝日プロデューサーの藤井智久さんにM-1前にネタを見てもらったら、『栃木ネタで3分いけない?』とアドバイスをいただき、やってみたら決勝に行けました。喜びと同時に『決勝でスベったらすべて終わる! ネタを忘れたらどうしよう!』ってプレッシャーもありましたね。それで本番のせり上がり直前に『最後の最後にネタ合わせしよう!』っつって慌てて」
益子「『あれ? あれあれ? 合わねーぞ』ってなったときに舞台がせり上がって。あそこでやるべきじゃなかったよな」
福田「最悪でしたよ。それまで死ぬほどやったので体に染み込んでいて、結果、できたんですが、頭が真っ白な状態でした」
「俺らは一生縁ないだろうな」
――NON STYLEが優勝した年で、結果は5位でした。益子「周りの芸人からは『アミー・パークの奇跡』って面白がられましたね。『マイアミの奇跡』みたいに言われて」
――それからテレビ出演が急増したと思います。最近では『有吉の壁』(日本テレビ系)でもご活躍中で。
益子「何度出ても緊張します。ネタを作るのも、『みんなどうやってんだべ〜』っつって、迷いながらいつも『もうダメだー!』と思って作っています」
福田「さっきまで一緒に作っていたんですが、かなり煮詰まっていましたね」
――『一般人の壁』での設定ボケや、チョコレートプラネットの『TT兄弟』が誕生したキャラクター選手権、大喜利など即興の芸など、視聴者に幅広い笑いを提供してくれる番組です。
福田「今までやらなかったこととか、挑戦する機会を与えてくれる番組ですね」
益子「出るまでは見る側だったんです。『すげーな、俺らはこういうのはムリだろうな』って」
福田「『センスのいい戦いをしてるな。俺らは一生縁ないんだろうな』っつって。ひねり出すということをやってこなかったんですよ、すぐに諦めて。そしたらオファーをいただいたので、『やっべ!』と」
益子「できないと思っていたことを、チャレンジして、上手くいくときもあれば、つまらなかったらつまらないで笑いに変えてくれるし。幅が広がって、出演して良かったと思いました」
福田「幼稚園のときに習っていたバイオリンの生演奏に挑戦したこともあったんです。2カ月くらい練習して本番はちゃんと弾けて。一生懸命やることって大切なんだなって思いました」
益子「おせーよ! 40代半ばで。20代で気付くんだよみんな」
――(笑)。最後に、今後の展望を教えてください。
福田「頑張ってテレビに出られるうちは出続けて」
益子「メディアに出ていないと、地方に行って漫才をする機会が減っちゃうんで。地方でのライブが一番楽しいんです。出番30分前に会場に入って、15分労働して『じゃあ帰っぺ』っつって新幹線で帰れますし(笑)。サラリーマンができない人間の理想的な働き方です。俺らはサラリーマンできますけどね」
――マグネシウム工場に毎日、出勤していましたもんね(笑)。
(文/有山千春 撮影/丸山剛史)
U字工事(ゆーじこうじ) 福田薫、益子卓郎 栃木県立大田原高校の同級生で、2000年にコンビ結成。栃木弁による漫才を披露し、地元の特産品や名物、隣県との関係など、栃木に絡めたネタで人気を博す。現在は東京を中心に活動するほか、地元栃木のテレビ局でレギュラーを持つなど、多忙な日々を送っている。
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