『私だけ年を取っているみたいだ。ヤングケアラーの再生日記』文藝春秋/1210円
水谷緑(みずたに・みどり)
漫画家。神奈川県生まれ。2013年、メディアファクトリーのコミックエッセイプチ大賞を受賞し、2014年に『あたふた研修医やってます。』でデビュー。主な著書に『精神科ナースになったわけ』『大切な人が死ぬとき』など。
――実話を元にした漫画だそうですね。ヤングケアラー(介護を担う子供)の取材のきっかけはなんですか。
水谷 編集さんが『精神障がいのある親に育てられた子どもの語り』という本を読んで感銘を受けて提案してくださいました。これまで精神疾患の取材を5年くらい続けていましたが、かわいい子供の話を聞いたり描いたりするのは気が進みませんでした。
でも実際にヤングケアラーの話を聞いてみると、魅力的で面白い方が多く、自分が家族を作っていく上で参考になることもあり、興味を持つようになりました。
――実際にヤングケアラーを取材してみて、どのように感じましたか?
水谷 親子の役割が逆転していて本当に驚きました。中学生が徹夜で親の悩みを聞いてあげたり、小学生が勝手にスーパーの商品を取って食べてしまう母の後をついて回り、お会計をしたりしているケースもありました。壮絶な話もあります。親が暴れるので小学生の兄弟が車で一晩過ごし、朝起きると、母親が包丁を持って窓をコンコン叩いていたりとか。子供は気持ちを言語化しにくいので、ストレスが体に出ます。小学生から謎の微熱や不眠があるケースも多かったですね。一方で、子供のたくましさ、プライドの高さを感じました。周りの人に同情されても簡単に助けを求めないですし、自分が最前線で家族を守っている意識が強く、親や自分の頑張りを否定したくない気持ちを抱えていると感じました。
一番弱い存在にしわ寄せが…
――漫画では、主人公の父親や弟は病気の母親の世話をあまりしていないように見えますが…。
水谷 お話を伺ったのは10人程度でしたが、共通していたのは父親の不在でした。父親は仕事をしていればいいと思っていて、育児や家事はほとんどしません。皺寄せが家族の中で一番弱い存在(子供)に全部向かっていましたね。男尊女卑の意識からか、教育差別がある家族もあり、女の子が一番矢面に立っていました。
――もし身近にヤングケアラーがいたら、どのように接したらいいのでしょうか?
水谷 しっかり者で勉強ができる子が多いので、まず見つけることが難しいと思います。家の悩みを話すのは、自分の心臓を取り出すくらい大変で勇気がいることなので、疑わしい場合はまず関係性を作るところから始めるのがいいと思います。ゲームをするなど、何か一緒に楽しんだりすることで、胸の内を明かしてくれるのかなと思います。日々あいさつをするだけでも十分意味があると思いますよ。
(聞き手/程原ケン)
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