『ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う』現代新書/1012円
坂本貴志(さかもと・たかし)
1985年生まれ。リクルートワークス研究所研究員・アナリスト。一橋大学国際公共政策大学院公共経済専攻修了。厚生労働省にて社会保障制度の企画立案業務などに従事。その後、三菱総合研究所エコノミストを経て、現職。
――2019年に「老後に2000万円の資金が必要である」というデータが流れました。実際にはどのくらい必要なのでしょうか?
坂本 総務省「家計調査」から無職世帯の家計収支の差額をみると、70代前半で5.1万円、70代後半で3.3万円の赤字になり、90歳で死亡すると仮定したとしても、累計の赤字額はそこまで大きくはなりません。高齢期には「小さな仕事」に従事しながら、夫婦合わせて月10万円程度稼いでいくことを一つの目標にするとよいのではないでしょうか。平均的な年金給付額にプラスして、1000万円程度の貯蓄があれば、統計上は高齢世帯が送る平均的な暮らしが実現できると考えられます。
――定年前と定年後、仕事の内容はどのように変化するのでしょうか?
坂本 定年後の働き方は、仕事に関する能力の向上を日々感じながら働く現役時代の働き方とは異なります。自身ができることを振り返りながら、目の前にある仕事の選択肢を見つめていくことが大切です。また、先入観にとらわれず広い視野で社内外の多様な仕事に目を向けることです。パート・アルバイトのような非正規の雇用形態や、フリーランスとして業務委託契約を結んで働く形であっても、定年後に必要な収入を稼ぎながら社会に貢献できる仕事はあります。多くの人は定年後の仕事はきっとつまらないものになるのだろうと、直感的に思うかもしれません。ところが結果はむしろ逆で、高齢期の就業者の方が現役世代の就業者よりも仕事の満足度が高いのです。
定年後は価値観を変えることも大事
――これからセカンドキャリアを迎える読者に、どのように仕事を見つけたらいいか、また、その心構えを教えて下さい。
坂本 生涯現役社会においても、これまでと同じように働けなくなる時期を誰しもが必ず経験することになります。そのときに、いま自身が直面している現実に目を背けることなく、それぞれの体調なども踏まえながら、その時々にできる範囲の仕事で稼いでいく必要があります。また、仕事から得られる収入は、その人がなした仕事による成果などに応じて決まるものであって、決してそれがその人自身の価値を決めるものではありません。定年後は、もはや高い給与を稼ぐから偉いとか、低い給与の仕事はダメだとか、そういう競争意識にとらわれる必要はないのです。そうした考えを持って自身に合う仕事を探していけば、きっと身近なところに、自身にとっても社会にとっても双方に価値のある仕事が見つけられるのではないでしょうか。
(聞き手/程原ケン)
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